ニッケイ新聞 2013年11月7日
「『お釈迦』さまはシャキャ族の王子だった事で『シャカ』の名が付きましたが、別名『仏陀』とも言われますね。『ブッダ』の語源は古代インドのサンスクリット語で『目覚めた者』、つまり『覚者(さとるもの)』と云う意味で『悟り』を開いた方を指します。そう云うわけで、仏教に尽し、ある程度『悟』った方も仏さまと呼び、未だ修行中の『菩薩』さま達や、それに、偉いお坊さんまでも仏さまと呼んでいいと祖父が言っていました」
「他にもおられますか?」
「はい、仏教の守り神『梵天』、『帝釈天』や『四天王』の中の『毘沙門天』、そのお妃で、絶世の美女で修業僧も惑わす『吉祥天』、俊足の『韋駄天』、日本でなじみ深い七福神にも含まれた『大黒天』例の『大黒』さんや『弁才天』略して『弁天』さんと、私の大好きな庶民的な仏さまが沢山おられます」
「頼もしく素敵な仏さんがたくさんおられるのですね」
「この様な仏さま達に守られて暮らすなんて楽しいではありませんか」
「ほんとうに、仏の世界は面白くて楽しいですね」
西谷は時間を気にして腕時計を見た。その瞬間、中嶋和尚との問答が途絶え、今まで気にしていなかった周りのざわめきが急に聞こえ、夢の世界からこの世に戻ったような気がした。
「こうやって、中嶋和尚の仏さま達のお話に夢中になっていますと、別世界にいたような気分でした。不思議ですね」
「私も、仏さまの話を始めますと、自分がどこにいるかも忘れてしまいます。私達は今、ブラジルの首都ブラジリアの空港ロビーにいるのですね」
「一瞬、次元の違う世界から戻ってきた様な気がしました。・・・、まだ、リオデジャネイロからの乗継便が着くまでだいぶ時間があります。中嶋和尚、これから、目の前のブラジリアの世界を見ますか」
「はい」
「あのいちゃついている男女がいますね。日本では周りから迷惑だと非難されるでしょうが、ブラジルでは誰も気にしません。本人達は二人だけの幸せな世界に居ます」
「周りのブラジルの人達は縁結びも司る『愛染明王』の化身なのでしょう」
「中嶋さん、あの白い服装の一団がいますね。あれは『カンドンブレ』といって、アフリカから伝わった宗教の信者達です」
「アフリカから?」
「ええ、黒人から伝わりましたから、そうだと思います」
「服装が真っ白で清潔な感じですね」
「意外と信者が多いですよ。特に麻薬患者が救いを求めて・・・。神秘的な雰囲気が功を奏して結果を出しているそうです」
「まるで『観世音菩薩』さまみたいで、名前までなんとなく似ていますね」