ニッケイ新聞 2013年11月12日
世界に〃サッカー王国ブラジル〃のイメージを植えつけた「サッカーの王様」ペレこと、エドソン・アランテス・ド・ナシメント(73)。20世紀最高のサッカー選手とも呼ばれた元スター選手のその半生を追った映画はこれまでもいくつか作られているが、W杯を来年に控えた今年、新たなペレ映画の撮影が、9月末からリオで進行中だ。その名も、『ペレ 伝説の誕生』(Pele The Birth of Legend)。
撮影場所はリオの農村地帯で、ペレが幼年期、青年期を過ごしたバウルーやサントスを表現する。監督は、日本では08年に公開されたドキュメンタリー『ファベーラの丘』も製作した、ジェフ・ジンバリストとその兄弟マイケル・ジンバリストの2人。ハリウッド映画だ。
ペレの父ジョアン・ラモス(通称ドンジーニョ)、おじのフランシスコは共にサッカー選手だった。母のセレステは、経済的に不安定なサッカー選手よりも、息子が教育を受けて真っ当な職業に就くことを望んでいた。
ドンジーニョが息子の才能を見出し、華奢なエドソン少年が〃天才ペレ〃への階段を上る瞬間のシーンは、リオ西部ジャカレーパグアー区にある老人ホーム「ベネフィセンシア・ポルトゲーザ」の庭で収録された。サッカーボールのような大きなマンゴーが実る木のそばで戯れる父子の姿だ。
父のドンジーニョを演じるのは、歌手で俳優のセウ・ジョルジ。幼き頃の天才少年ペレを演じるのは11歳のレオナルド・カルバーリョ、17歳のケビン・デ・パウラ。ともに俳優ではない、普通の子供だ。2人ともリオの貧しい家庭の出身で、ブラジル、アメリカ、カナダ、アフリカ出身の400人の候補の中から選ばれた。
映画の言語である英語は話さない。だが、「ペレのスピリットを探し求めていた」という監督が求めていた純粋さとある種のずる賢さを、2人は持ち合わせていた。
2人は撮影のため、50日間学校を休むことが認められた。「映画でペレになれるなんて夢にも思わなかった。今は俳優とサッカー選手になりたい」と粋なレオナルド。
ケビンは既にリオ市内のチームで選手として活動する。「サッカー王様を映画の中で作り上げるのは大きな責任。ここで得たお金で、失業してるお母さんの家のリフォームを手伝ってるんだ」と、母親思いの一面を覗かせる。
父親役のセウ・ジョルジは「人の半生を語る作品は、一般に本よりも映画のほうに反響が集まる。それゆえに描かれる人の同意を得ることが必要。重要なのは、真実を語ること」と語る。
息子を愛する父、息子をサッカーの道に進ませるよう妻を説き伏せる夫を演じるキーパーソンのドンジーニョを演じるセウ・ジョルジは、1970年生まれ。1970年のW杯優勝に導いた〃ペレのワールドカップ〃フィーバーに沸いていた年だ。「母は僕をサッカー選手にしたくて、生まれてすぐ、僕を抱いてブラジル代表のチームの優勝パレードを見に行ったんだ」と振り返る。まさに、ペレが「成功した黒人」の代名詞のような存在となった時代、セウ・ジョルジは子供時代を過ごし、その影響を多分に受けて育った。
肝心のペレはまだ収録現場を訪れておらず、映画に関するメディアの取材も受けていない。今後は世界的に活躍する若手人気俳優ロドリゴ・サントロのキャスティングも予定されており、公開は来年W杯開幕試合の前夜の予定だという。(10月29日付エスタード紙電子版より)