ニッケイ新聞 2013年11月12日
写真=気持ちのこもった歌を披露する比嘉栄昇さん(初日、アニェンビー会場で)
「ただいまブラジル!」。沖縄県石垣島出身の人気バンド「ビギン」のブラジルツアーが8日夜、そんなかけ声と共にサンパウロ市アニェンビー国際展示場の大講堂で始まった。初日のステージには沖縄県系人をはじめ総勢約1500人の観衆が詰め掛け、ウチナーグチの混じる力強い歌声に酔いしれた。公演後、ボーカルの比嘉栄昇さんは本紙のインタビューに対し「数多くの日系の方が、世代を超えて集まってくれたことが一番嬉しい。彼らの沖縄への思いがある限り、両国の絆は途切れない」と感慨深げに語った。
午後9時頃「三線の花」によって幕が開くと、割れんばかりの大歓声と拍手、指笛が会場にこだました。比嘉さんは「ムイト・プラゼール!」とポ語を交え挨拶。「今日集まった皆はもう親戚。皆で楽しもう」と呼びかけ、観衆も拍手でそれに応えた。
続いてメジャーデビュー曲の「恋しくて」、最新曲の「春にゴンドラ」を熱唱。2011年の初来伯時に沖縄県人との交流の中で生まれた、ふるさとを懐かしむ移民の心境を歌った「帰郷」、ブラジル風焼肉をテーマにした「シュラスコ」なども披露した。
比嘉さんが「どうしても一世の方に聞いてもらいたかった」という「赤トンボ」「背比べ」など日本の童謡や、当地のバンド「バンドリン・エレトリコ」、アコーディオン奏者のアドリアーナ・サンチェスとのセッションもあった。「島人ぬ宝」「笑顔のまんま」ではそれぞれ、レキオス芸能同好会、琉球国祭太鼓のメンバーが加わって迫力の演奏を見せた。全20曲に加え、最後は会場一体になってカチャーシーを踊り、幕を閉じた。
「2歳で来伯してから故郷に戻ったことがない」という比嘉スミコさん(79、沖縄)は「彼らの歌から沖縄を想像する。今日も凄く良かった」と終演後のステージを見つめ、息子のヒロミツさん(47、二世)も「日本語はほとんど話せないけどビギンの歌は大好き。曲から父、母の文化を学んでいる」と話していた。
終幕後、ギターの島袋優さんは日系コロニアについて「熱くて、温かくて、凄く大きなものを感じた。〃ただいま〃と言えた気がした」と笑顔を見せ、電子ピアノの上地等さんも「ここはすぐ戻ってきたい、帰ってきたい場所になっている」と声を弾ませた。一行は9日に同会場で1千人、10日にパラナ州ロンドリーナ市でも800人を前にライブを行い、3公演合計3300人が押し寄せる盛況の中、ツアーを終えた。12日に帰路につく。