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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(46)

ニッケイ新聞 2013年11月20日

 機内持込みのバックを肩にかけ、タラップを降り、強い陽をはね返し、地獄の釜の底を思わせる灼熱のコンクリートの上を歩き、管制塔を被った建物に逃げ込んだ。
 十分後、荷物が分厚いゴムのコンベヤーに乗って現れた。
「あっ、あれだ、あれです」
 二人が荷物をカートに乗せて不安そうにゲートを出ると、A4サイズのプラカードを持った中年で真っ白い髪のブラジル人が寄って来た。
「ニ、シ、タ、ニ、サン!?」
「(はい、貴方はアレイショスさんですか?)」
「(そうです)」
 『菩薩』さまみたいな顔のアレイショスに、二人はホッとした。
「(はじめまして)」
「(この方が)ナ、カ、ジマ、サン?」
「中嶋和尚、ジョージさんが紹介した副司令官のアレイショスさんです」
「中嶋です。始めまして。お迎えに来ていただき、恐縮です」中嶋和尚の挨拶を西谷が通訳した。
「(ジョージのお友達と聞いて、喜んで迎えにきました。こちらへ)」
 黒い角型の車体に金色で『Policia Federal(連邦警察)』と書かれた、一見霊柩車みたいでなんとなく不気味な様相の、ダブルキャビンのジープが正面入口の駐車禁止区域に堂々と止めてあった。
「(どうぞ)」
「(公用車に?)」
「(大丈夫です。我々の行動はいつも何かの捜査の一環と見なされますから、心配なく)」
「中嶋和尚、どうぞ」
「いいのですか?」
「大丈夫です。ですが、警察に連行されているような感じですね」
 運転席から出てきた彼の部下が二人の荷物を後ろに積み、ドアを開けてくれた。二人は勧められるまま車に乗り込んだ。中は強力な冷房が効いた極楽であった。

 助手席に乗ったアレイショス副司令官は、運転の部下に、
「(ホテル・ジュレマへ)」と指示してから、身体を捻り後部を見ながら、
「(ウエムラは元気ですか?)」
「(はい。上村さんから、よろしく伝えてくれと、これを託されました)」
「(おお、ウエムラも好きなジャックダニエルですね。よく二人で飲んだトウモロコシのウイスキーです)」
「(上村さんとは古い付合いですか?)」
西谷は話しながら、中嶋和尚に会話の内容を通訳した。
「(ウエムラは私の命を何回も救ってくれた刑事時代の相棒です)」