ニッケイ新聞 2013年11月22日
臓器売買をめぐる医療サスペンス『死の臓器』に続いて、本紙OBの麻野涼氏が今度は社会派ミステリー『死の刻(とき)』(680円)を同じく文芸社文庫から書下ろし刊行した。
有名私立高校の湘南台旭日高校に突然、「学校を爆破する!」という強迫電話が入った。そして見せしめとして、正門が予告通り爆破された。
犯人の要求は「我々の犯行動機を解明してみろ。できなければ校舎自体を生徒ごと爆破する」という不可解なもの。しかも、そのメールは、ブラジルから送信されていることが分かった。
脅迫を受けた校長や教師は生徒400人を守るために、犯人と交渉を始める。湘南台署の佐々木薫(かおる)警部は捜査を進める中で、脅迫メールの発信元が、アマゾン河口の町ベレンにある汎アマゾニア日伯協会のパソコンだった…。
さらに22年前、その高校が修学旅行で中国蘇州に行き、列車事故で遭い、28人が死亡という惨事がおき、6遺族が裁判に訴えていたことが分かった。正門爆破の日付、時刻はまさにその列車事故が起きた日時と同じだった。ブラジルと中国に跨る、緻密に計算された怨念を孕んだ謎の爆破計画とは何か。本紙で紹介した小説『移り住みし者たち』で、じっくりとブラジル移民を描いた麻野涼の最新作だ。