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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(47)

ニッケイ新聞 2013年11月22日

「(ええ! そんなに彼は凄かったのですか!)」
「(拳銃扱いはサンパウロ一でした。練習は全くダメでしたが、如何した事か、実戦になると抜群でしたね)」
「(そのウエムラさんがどうして刑事を辞めたのですか?)」
「(本当は辞めたくなかったのですが、そうせざるをえない事件を起こしましてね、彼、その話しなかったですか?)」
「(いいえ、で、どういう事件を?)」
「(警察署長を撃ったのです)」
「(ええ! ジョージさんが!?)」
「(署長が賄賂で敵に飼われたと思ったのです。あの当時、私もそう思っていました)」
「(で?)」
「(敵の企てで、署内が攪乱され、それにハマったのです。不覚でした)」
「(署長は?)」
「(幸い命は助かりましたが、入院半年の重傷でした)」
「(死ななくてよかったですね)」
「(署長も暴発事故で処理してくれましたが、それでも、署長の治療期間と同じ半年間、職務停止の処分を受けました)」
「(それで、辞めたのですか?)」
「(彼の性格からして、半年間の職務停止は耐え難かったのです。それで彼はタケモトと云う日本人の世話で旅行社を開設しました。私も資金借入れの保証人になり、初めて彼に恩返しする事が出来ました。今では我々安月給の公務員よりうんといい生活をしています。ほんとに良かったです)」
「(良かったですね)」
「(明日の予定ですが、実はこの方面の緊急幹部会議が有りまして、私はどうしてもご一緒出来ません。残念です。それで、私の代行として今運転しているアナジャス軍曹を当てます。彼はトゥッピナンバスと云うインディオの部族長の子孫で、ジャングルでは私より頼りになります。それに、軍曹の部下で、二名のレンジャー部隊の兵も同行させますから安心して下さい)」
「(アナジャス軍曹です。よろしく)」
「(よろしく)」
「(それから、これから行くホテルは高級ではありませんが、料理は最高で、清潔で、しかも無料です。急務であちこち全国を飛び回る軍人や連邦警察幹部用のホテルです。一世紀前に兵舎を改造して造られたホテルですが、軍のホテルとしてはサービスと居心地で全国一と云われています)」
「(いいのですか、民間人が泊っても)」
「(かまいません。他の軍人も民間人や休暇中の家族を連れて利用します。それは、こんな密林のホテルのマンネリ化を防ぐ対策なのです。それに、このホテルは私の管理下で、宿泊数が三人でも三十人でも経費はほとんど変わりません)」
「(このホテルの管理もされておられるのですか)」
「(ひょんな事で管理を任されました)」
「(ひょんな事とは?)」