ニッケイ新聞 2013年12月5日
4日付エスタード紙が掲載した、先週アクレ州で交通事故に遭い、病院に運び込まれたという78歳の男性の写真が目を引いた。この男性は、88年12月22日に起きた「環境運動の先駆者」シコ・メンデス殺害事件で殺害を命じたとして、90年に19年の実刑判決を受けた農園主だ▼アマゾンの熱帯雨林を伐採して牧草地にしようとする大土地所有者や牧畜業者に対抗し、環境保護活動をしていたゴム樹液採取者のシッコは大地主達の目の上のたんこぶ。環境保護活動家では米国からの宣教師イルマン・ドロシーも暗殺されたが、自分達の利益を損なう人物を厭う思いが相手の命を奪う事件は後を絶たない▼シコ・メンデス殺害事件の裁判は世界中が注目し、先の男性も「世界中が自分に対抗して立ち上がった」と言う様に、当日は町中に欧米のTV局などのカメラも立ち並んだ。「裁判ではきちんとした証人もなく、出廷した人が20年以上前の事を語ったのに事実か否かを確かめさえしないで判決が言い渡された」との不満はある。しかし、「犯罪は何の良き実ももたらさない」「他の人には被告席で判決を聞いた時の思いを味わわせたくない」とも語る▼若い頃兄弟が殺されて以来抱いていた復讐の念も今はなく、病室のベッドで「罪の赦しの時は全ての人にある」「車に撥ねられて死ぬと思ったのにまだ生きている」と言う男性の膝の上には聖書も。神の前に「人を傷つける事はしないし頼まない」と約束したという男性。刑期も終え、歴史の影に埋もれるはずだった人が事故に遭ったのは、メディアを通して後悔と赦しについて語るためだったのかと、考えてしまった一時だった。(み)