ニッケイ新聞 2013年12月7日
日本政府の帰国支援金で帰伯したデカセギの再入国が10月15日から解禁となったが、その後の状況はどうなっているのか。解禁はされたが、再訪日のビザ申請の際に「1年以上の雇用契約書」の写しを提出することが条件だ。ただし、当地の派遣会社からは「求人は普通2、3カ月で、長くても6カ月。1年以上の雇用契約という条件は現実的ではない」との声が上がっている。また「申請するにも雇用契約書の作り方が分からない。ひな型を作ってほしい」という困惑の声も。ようやく開いたはずの門戸だが、実はまだ再入国困難な状況が続いている。
日本政府は09年、リーマン・ショックで生じた大量の在日ブラジル人失業者などに対し、3年間を目処に再入国を認めない条件で、一人あたり30万円(家族には一人20万円)の帰国支援費を支給した。同制度により2万1675人が帰国、うちブラジル籍者は2万53人で、全体の92・5%を占めた。
再入国については「制度開始から3年間をめどとして認めず、経済・雇用情勢の動向等を考慮して見直す」とされたが、実際は3年を経ても入国制限は解除されず、4年目も半ばが過ぎていた。
そんな中、景気持ち直しによる労働者不足に伴い、この10月に「1年以上の雇用契約」を条件に受入れが解禁された。在聖総領事館によれば、「日本入国後、少なくとも1年間は雇用先を確保していれば、より安定した就労状況がえられる」との理由からこの条件が付けられた。
そこで、日本の求人情報を扱う国外就労者情報援護センター(CIATE)に「1年以上の雇用契約」について問い合わせると、「そうした雇用はある。でも性別・国籍を指定して求人してはいけないので、日系人向けの求人数はわからない。派遣会社に聞いてみては」とのことだった。サンパウロ市のある派遣業者に訊ねると「日本の企業は、いつ辞めるかも分からない人材を1年も雇いたがらない。問い合わせは多いが、そんな雇用契約を出してくれる会社は一社もない」とこぼした。1年以上の雇用確保は、実質困難と言ってよさそうだ。
その上に、派遣業者を悩ませているのが雇用契約書の書式だ。契約書以外の提出書類は従来のままで、規定もはっきりしているが、「雇用契約書に関しては規定の書式がない」という。
植田敏博領事に確認した所、「ひな型のようなものは作っていないが、雇用契約書は労働基準法に基づいた内容で、労働条件通知書に準じたものであれば良い」という。同通知書は厚生労働省のHP(www.mhlw.go.jp)からダウンロードできる。
ある派遣業者が「日本の同業者に大阪入管まで書類を見せに行ってもらい、そこで『問題ない』といわれたのに、こちらの総領事館ではハネられた」と話したことを伝えると、「審査には色々な要素が絡むので、雇用契約書だけで決まるわけではない」と説明した。
植田領事は「やっと、という感じで再入国が始まったのに、複雑な手続きになっているのは申しわけない。受理の窓口を狭めているわけではないので、疑問点などがあれば査証班にご相談頂きたい。申請前に書類を見させてもらうことも出来る」と積極的に協力する姿勢を示した。
なお、現在までの申請数や認可数に関しては、「統計がまだないので答えることが出来ない」という。