ニッケイ新聞 2013年12月11日
12年ほど前、サンパウロ市ビラ・マリアナ区のアパートに住んでいた時、早朝ドアの呼び鈴が鳴った。誰かと思って開けたら、機関銃を持った屈強な5人の突撃隊のような警察官が拳銃を構えていた。まるで映画の一こまのようだった。寝間着姿のコラム子に「強盗に襲われていないか?」と聞き、全部屋を3分もしないうちに調べて嵐のように去った。アパートの窓から強盗が侵入しているとの匿名通報があったらしい▼先日、サンパウロ市イピランガ区でサワダ・サチカさんが1万5千レアルを奪われ殺害された時も犯人が匿名通報で逮捕となった。この「ジスキ・デヌンシア」(匿名通報)という制度は驚くほど機能している。逆に言えば、警察の捜査能力が多発する事件に追い付いていない▼これは95年8月にリオでONGとして生まれ、サンパウロ州でも97年にONGで始まり、00年から州事業に組み込まれた。サンパウロ州報告書を見ると年頭から10月までに12万3153件が通報され、うち48%が麻薬取引、6・5%が違法な賭け事など。匿名通報によって解決された事件は00年から今年10月までの累計で、誘拐事件221件、殺人2295件、麻薬取引3万2025件。その有効性が認められ、今や全伯に広がっている▼犯人グループの仲間割れが匿名通報に繋がるケースが多いようだ。相手を信じない、つまり性悪性的な国民性が支えている制度ともいえる。「情報」は本来、同じ内容でも言った人間の信用性が高いかどうかで、その質が問われる。この制度は、匿名ゆえに情報の質は不明だ。足を使った捜査でなく、通報に頼らざるを得ないという現実は、やはり頼りない。(深)