ニッケイ新聞 2013年12月21日
「防犯柔道」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。護身術としての柔道を想像したコラム子だが、サンパウロ州サウト市で柔道の指導を続ける渡部希一さん(74、神奈川)に「そうじゃないんだな」とたしなめられた。
麻薬の誘惑に引き込まれそうな貧困層の子供に柔道を教えることで、正しい道を歩む強い心を持ってもらうことがその趣旨だ。実際にサウト市では、スポーツ局と福祉局が一緒になって予算を組み、無料で柔道教室を開講しているという。
柔道の祖・嘉納治五郎の薫陶を受けた東京教育大学(現筑波大学)柔道部出身の渡部さんは「勝ち負けにこだわるのではなく、世の中に役立つ人をつくるというのが本来の柔道の姿」と語った。
日本にはない治安の悪さから生まれた新たな柔道指導の理念が、柔道の原点ともいえる思想に基づいているというのは非常に興味深い。(酒)