「その様な段階を踏んだからこそ、このアグロフォレストリー農法に辿りついたのですよ。日本メーカーも無農薬に興味を抱き、明治製菓がカカオ豆の発酵技術の指導に来て、原料の品質向上と確保にのりだしました」
「お悩みの狂い咲きをコントロールする鍵を教えましょう」
「ええっ! あるのですか?」
「意外と簡単ですが、皆に伝わっていないのです」
「簡単?」
「狂い咲きの原因を知れば簡単です。この第三トメアスは南緯二度地点で赤道から二百五十キロくらい南に位置する所です。ですから、かるーい春が年に二回あって、それで、狂い咲きします」
「年に二回? かるい春?」
「ええ、ここは常夏と言われますが、かるーい春夏秋冬が年に二回来ます」
「・・・? 年に二回もですか? ・・・」
「六月に北に二十五度と・・・、十二月に南に二十一度、二回陽が傾いて、冬が二回・・・それで、春も夏も秋も二回です」
「そうか! よーく考えればそうですよね。問題はそこですね」
「ここで失敗した私がどうのこうのと言う資格はありませんが、それを考慮すれば大丈夫ですよ」
「しかし、どのような方法で?」
「時期を合わせる様に植物をだますのです」
「奴等をだますのですか」
「その他に、最も野蛮な方法で、少し大変ですが、狂い咲きした花を全部落とせば、仕方なく揃って咲いてくれます」
「なーるほど、なんとかなりそうです。肥料の時期を操作したり、日陰の方向とか色々研究すれば・・・。アイデアが沸いてきました。有難うございます」
尾山はコップを当てて西谷と中嶋和尚に乾杯し、
「和尚さん、先駆者達にも乾杯しましょう!」
「その先駆者の霊が、面白い事に、この宴会に参加して一緒にドンチャン騒ぎされていますよ。でも、驚きです、アマゾンの密林の奥にこんなに大勢の『素晴らしい日本人達』が活躍しているなんて想像もしていませんでした」
「『素晴らしい日本人達』? 私には、熱帯動物になった『畜生』達に見えますけどね。そうでないとここでは生きていけませんしね」
そう言いながら目を潤ませた西谷の言葉を証明するかの様に、酔っ払いの野蛮人同士が喧嘩を始めた。それを見た中嶋和尚が、
「そう云う一面もありますが、この方達、本当に無邪気でスカッとする面がありますよ」
その言葉に従うかの様に、殴り合いになろうとしていた二人が皆に説得されて肩を組み仲直りしていた。