20世紀を代表するブラジル人ドキュメンタリー映画監督の一人であるエドアルド・コウチーニョ氏が2日午前、リオ市南部の自宅で刺殺され、同居していた息子(41)が殺人容疑で逮捕された。享年80。3日付エスタード紙など各メディアが報じた。
報道によれば息子のダニエル容疑者は薬物に依存している上、統合失調症を患っており、父親の身体を2カ所刺した後に台所にいた母親(62)をもナイフで刺した。母親は病院に運ばれ、重態となっている。
同容疑者は両親を襲った後に自殺を図り負傷、警察の監視の下で入院している。リヴァルド・バルボーザ担当捜査官によれば、同容疑者は犯行後に隣人のアパートのドアを叩き、「父を解放した。母と自分も解放しようと試みたができなかった。自分も2カ所刺したけど何も起こらない」と叫んで自宅に戻り、鍵をかけたという。
母親は部屋に入って鍵をかけ、もう一人の息子に電話をかけて助けを求めた。駆けつけた消防隊員を中に入れるためドアを開けたのは同容疑者だったが、その時既にコウチーニョ氏は亡くなっていた。
あるプロデューサーによれば、同容疑者は普段から攻撃的な振る舞いをすることで知られていたという。「コウチーニョは息子を制作チームに入れ、映画の撮影に連れて行くなどして助けようとしていた。でも現場ではいつも混乱が起きて、彼はそのことで悩んでいた」と明かした。
同監督はヘビースモーカーで健康上の問題はあったものの、代表作の一つ「死ぬ運命にあった男」(Cabra marcado para Morrer、84年)の復刻版DVD発売を控え、リオで新作を撮影中だった。遺体は4日、リオのサンジョアン・バチスタ墓地に埋葬された。
サンパウロ市出身、50年代半ばから映画や脚本制作に携わり始めた。傑作とされる「Cabra Marcado Para Morrer」は60年代初頭、北東部の農村リーダーが大農園主の命令で殺された事件を追い、その人物の人生を遺族や農村住民の証言を元に記録したもの。60年代から製作を始め、軍政廃止の年に公開された。
その後もファベーラがあるリオのモーロ・ダ・バビロニア地区をテーマにした「バビロニア2000」、コパカバーナの巨大なコンドミニアムに住む人々を描いた「エディフィシオ・マスター」、ルーラ前大統領が労働組合員だった時代を共に生きた金属工の証言を撮った「ペォンエス」など意欲作を発表し続け、生涯で22作品を残した。脚本も自ら手がけ、社会に生きる一般の人々の感情や熱望を、情緒主義を交えず切り取る作風で知られた。
突然の訃報に各界の著名人が追悼コメントを出しており、映画監督フェルナンド・メイレレス氏は「彼に取って代わる映画人は今のブラジルにはいない。巨匠だった」とその死を悼んだ。