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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(91)

ニッケイ新聞 2014年2月4日

「・・・なんまいだぁ(ミーミーミーミ)、なんまいだぁ(レーレーレーレ)、なんまいだぁ(ドードードード)、なんまいだぁ(ドードードード)、なんまいだぁ(ドードードード)』 ―

『ナンマイダー』は、手拍子も加わって大合唱となってしまった。そして、祭檀を包み、祭壇の奥に広がる密林に伝播していった。

十五分して、中嶋和尚が『チ~ン』と御鈴を鳴らし、お祈りの終了を告げた。御鈴音は大合唱に打ち消され、西谷やアナジャス軍曹や測量班の男達には辛うじて聞こえたが、念仏のリズムに乗って身体を揺り始めた群衆には無視された。

収拾がとれなくなった。

西谷とアナジャス軍曹が両手を振って、

「アカボウ! パァレ、パーレ!(終わったぞ! 止まれ、止まれ!)」と群衆に向かって叫んだが熱狂的になった念仏の大合唱は止まらなかった。

中嶋和尚が振り返り、皆に向かって蚊の鳴くような声で、

「ミサは終わりました」と頭を下げると、

『シ~ン』大合唱はウソのように静まりかえった。

アナジャス軍曹が、工事現場にあった木の台に上がり、

「(ミサは終わった。我々は先を急ぐ・・・)」

「西谷さん、私からのメッセージを皆さまに伝えてくれませんか」

「(アナジャス軍曹、セニョール・ナカジマから皆にメッセージを送りたいのですが)」

アナジャス軍曹は中嶋和尚を台の上に引き上げ、自分は飛び降りた。

「みなさん」

西谷がすかさず通訳に入った。

「(みなさん、宗教の種類や宗派を気にせずにミサに集まっていただき、宗教家の端くれとしてとても幸せです。皆様の大合唱の力で、たくさんの霊が集まりましたが『ブッダ』の祈りに戸惑い、成仏されるまでには至りませんでした。ですが、ご安心ください、『ナンマイダー』の歌を皆様一人一人が毎日一回歌って下されば、『ブッダ』の一派の本尊『アミダブツ』が願いを聞いてくれます。・・・、『ブッダ』は他の宗教の方であっても、拝んでいただいた方々に慈愛の手を差し伸べ安らぎを与え、極楽に導いてくれます。苦しい時や、悲しい事があれば『ナンマイダー』を思い出して下さい。有り難うございました)」

「(ありがとう! 『ブッダ』の牧師さん)」

「(ありがとう)」

「(ありがとう、『ナンマイダー』!)」

ミサに心を癒やされた群衆から拍手が沸いた。そして、コーラスで『ナンマイダーァ、ナンマイダ』が始まった。

中嶋和尚が台から降りジープに乗り込むと、アナジャス軍曹はエンジンを掛けるとともに窓を開け、皆に手をふって別れを惜しんだ。

二台のジープは『ナンマイダーァ、ナンマイダ』のコーラスで見送られた。