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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(98)

ニッケイ新聞 2014年2月14日

「私の祖先は江戸時代からずっとお寺の住職です」

「じゃー、中嶋さんもお寺の住職ですね?」

「自動的には、・・・、そうです。ですが、それに疑問を持ちまして・・・」

「疑問?」

「ええ、私と一緒に修行していたサラリーマンあがりの立派な方がいて、この方は住職どころか、修行後の行く場所もありません」

「で?」

「この徳川幕府が定着させた檀家や世襲システムでは、新しい僧侶は、どこかのお寺の副住職として終わるでしょう」

「それが、問題ですか?」

「問題です! 後継者が少ない住職を世襲でなんとか?げようとするのは反対しませんが、素晴らしい修行僧にチャンスが回ってこないのには疑問です」

「そうですか」

「で、私はこの修行僧に『私に、修行が足らなかった場合は君がこのお寺の住職だ』と言いました」

「ええっ! それで?」

「彼は『その心だけで、貴方の副住職として捧げますよ』と言いました。そして、今回のブラジル行きを彼は支援してくれました」

「それほど、貴方を信頼しているのですね」

「いえ、頼りないと思っています」

「彼は信頼していますよ」

「自由翻弄に旅する私が頼りないのは確かです」

「信頼されているのも確かですよ!」

「彼は言いました。『井手善一さんに会って、その方の教えを私の分まで吸収して来て下さい』と」

「これ、新聞記事になりますね」

「えっ? それは困ります。これは我々二人の問題ではありません。これは本尊や檀家さん達にも影響する問題ですから」

「失礼しました。記事にしたいなんて冗談です。それで人を怒らす事が度々あって、冗談が嫌いなジョージなんかとはいつも喧嘩になってしまいます」

「ジョージさんは優しい人ですけどね」

「彼は、いざとなった時に頼りになるし、喧嘩ばかりしていますが、本当はいい奴だと思っています」

「私はジョージさんに救われました。危ないところを救われ空港からサンパウロまで送っていただき・・・。それから、行くところがなく、そのまま彼のアパートに居候しています」

「彼のアパートに! 実は私も彼に助けられました。五、六年ほど前までジョージは刑事でした。その頃、私が強盗に襲われましてね。その犯人が捕まった時、警察署で、正義感溢れる私はその男を指で指して証人になりました。そこまでは格好良かったのですけど、三ヶ月後、釈放された犯人は復讐で、私を殺そうとつけ回っていたのです」

「古川さん、怖くなかったですか?」

「いえ、全然知りませんでしたから」

「で、どうなりました?」

「彼が事前に阻止して、助けてくれました」

「再逮捕ですか?」

「いえ、殺したのです」

「ええっ! ジョージさんが?! ・・・」

「私が警察署で犯行の証人になった時、彼は既にそれを予感したそうです。それも、正当化する為に、私を襲おうとした瞬間を狙って射殺しました」

「ジョージさんは、意外な面があるのですね」

「私の取材では、彼は刑事時代に二十数人の悪者を葬っています。だから、今でも拳銃を手放しません。後で、それを下手に記事にしましてね、それから彼に嫌われました」

「古川さん、説教していいですか?」

「勿論」

「ジョージさんにもしました。それは、古川さんとジョージさんの関係です」

「そうです。アイツとの悪い関係をなんとかしたいのですけど、つい意地を張って、喧嘩になってしまいます」

「あの居酒屋での出来事ですけど・・・」

「中国人バー『シェン』でですか」