「規律、勤勉さ、フェアプレー精神。日本からは本当にたくさんのことを学んだ。その姿勢は今の活動にも生きている」と感慨深げに語るワシントン・ステカネラ・セルケイラ(38)。彼は現在、自身のプロデビューの地であるリオ・グランデ・ド・スール州カシアス・ド・スール市で市議会議員当選を経て、市スポーツ・レジャー局長の要職に就く。
ブラジル代表への選出歴(通算10試合1得点)もあるワシントンは、Jリーグでも前評判に違わぬ活躍を見せ、東京ヴェルディ、浦和レッズの2チーム計3シーズンで85試合64得点を記録、06シーズンにはリーグ得点王に輝いた。温厚で理知的な性格は多くのサポーターに愛され、今なお根強いファンは多い。
全盛期を過ぎたスター選手の〃終息の地〃としての訪日とは違った。ヴェルディ加入前年の04年シーズンには、アトレチコ・パラナエンセで38試合34得点を挙げ、全国選手権得点王を獲得するなど、選手として油の乗った時期に来日した。
「欧州チームを含め、日本以外からも多くのオファーはあった」という中、日本行きを決めた。そのきっかけには、2001年にブラジル代表の一員として参加した、日本開催のコンフェデレーションズ・カップでの経験があった。
「統制された大会運営、温かく熱心なサポーター、近代的なスタジアムを目の当たりにして、強い印象が残った。大会期間中はブラジル料理ばかり食べていたし、日本文化的なものに触れる機会もほぼなかっただけに、純粋にこの国のサッカー文化と環境に惹かれた」と当時を振り返る。
「金銭的な条件がヴェルディを上回るチームは確かにあったが、日本行きを選んで本当に良かったと思っている。人間的にも非常に成長できた」と決断に後悔はない。
08年に帰国、2度目の全国選手権得点王となったフルミネンセや、サンパウロFCといった国内の有名クラブで大活躍をし、2011年に現役を引退した。休む間もなく翌12年10月のカシアス市議選に出馬し、8千票を獲得するトップ当選を果たした。
市議としての活躍が期待されたが「市長から直々に特命を受け」(本人談)、任期開始と同時に市議職を休職し、W杯開催を機に市内のスポーツ熱をさらに高めるべく現職に就任した。
今年10月に控える連邦下議選への出馬を予定しており、準備や選挙活動のため、4月より市議に復帰する予定だ。
日本チームのグループ戦の勝敗について「本当に見極めが難しい組」と頭をひねりながら、第一戦のコート・ジボワールに勝利しての1勝2分けと予想。「試合会場を考慮すると勝負のカギは暑熱対策。その点、蒸し暑い気候になれた日本の選手の利点は大きい。日本の夏には僕自身本当に苦労させられたしね」との分析を見せた。
注目する選手には日本のキャプテンで元チームメートのMF長谷部誠に加え、「浦和にいた時から良い動きを見せていた」というMF細貝萌(現在はドイツ、ヘルタ・ベルリン)を挙げ、「ぜひ浦和勢に頑張って欲しい」と古巣への愛着を垣間見せた。
W杯出場チームのベースキャンプ地候補となった同市における、代表国招致のための特別委員会のトップも務めた。実現には至らなかったが、「どのチームより一番来て欲しかった」のは日本チームで、その招致に奔走したという。
浦和が07年にJリーグのチームとして初めてアジア・チャンピンズリーグを制した際のエースは、「(日本人が少ない)カシアスの地にも、ここに一人の日本代表サポーターがいることを覚えておいて」と白い歯を見せ、日本チームにエールを送った。(つづく、酒井大二郎記者)