1996年から17年間、在日ブラジル人のための健康相談を無料電話で受ける活動を行い、これまでに延べ6万人の対応してきた「ジスキ・サウージ」が今年で活動を終了してしまう可能性があることが分かった。代表理事の宮田ネウザ恵美子さん(47、二世)は本紙の電話取材に対し、「これまで活動を支えてきた多くのスポンサーが今年度いっぱいで降りるため、このままでは活動を終了せざるを得ない状態」と語った。
1995年の阪神淡路大震災時に在日ブラジル人も被災して、コミュニティ全体にもストレスの問題が出始めたのを受け、在日ブラジル人医療従事者たちが中心となって、健康相談や講演活動をはじめたのが「ジスキ・サウージ」のきっかけ。
後に在名古屋ブラジル総領事館でのコミュニティ審議会の発案で事業化され、言葉の問題を抱え、病院で日本人医師との意思疎通ができないブラジル人のために、無料の電話相談窓口が開設された。
電話で寄せられる相談には、医師や臨床心理士が対応し、ポ語での健康相談はもちろん、患者と病院の仲介者として役割を果たしてきた。
代表理事を務める宮田さんは臨床心理の研究ために日本政府の招聘で92年に訪日した。当時は関西で警察通訳として働き、窃盗や薬物等の罪で処罰されたブラジル人の対応を行った。その後在名古屋ブラジル総領事館で事務局の仕事を行い、コミュニティに寄り添った仕事を行ってきた。
同サービスは17年間に7人の専門家が、約6万件もの電話相談に対応してきた。宮田さんによれば、08年の金融危機に在日ブラジル人が急減した後も相談件数にはさほど変化はなかった。「出産時に相談をした人が子育てに直面して再び電話するなど、人生の節目を迎えるたびに利用する人が多いためか」としつつも、「支援を必要とする人たちが日本に残ったとも捉えられる」と分析する。
相談内容の変化としては、当初は単身で訪日する人のものが多かったが、徐々に家族連れでの移動が増え、配偶者や家族にかかわる相談内容が増えてきた。
近年、目立って増えているのは、精神疾患と思われる相談で、「慣れない異国での生活、子どもの教育の心配などに加え、仕事上のストレスがうつ病やパニック障害などの精神疾患発症を多発させている」と言う。長年にわたる日本生活で、子どもたちが教育を受け成長していき、移民化した今でも「いずれ帰りたい」と定住者としての現実を受け入れられず、将来に対する漠然とした不安がストレス蓄積の背後にあるようだ。
同サービスは08年に在日ブラジル人への有効な支援プログラムとして日本国外務省から、10年にはブラジル政府からも感謝状を授与された。しかし公的援助はなく、運営を支える人や企業がいなくなれば継続は難しい。
宮田さんは「任務を果たしたという気持ち」と語りながらも、必要の声が強ければ、新たな運営方法を模索する考えだ。