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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(120)

ニッケイ新聞 2014年3月20日

『その被害者の名前は『田口聖子』、年令二十八歳、独身、東京都八王子市出身、職業は新聞記者、南伝仏宗(架空)の解散の取材中に森口氏から性的暴力を受け、入院、起訴しようとした彼女が院内感染で死亡した事で不起訴になったようです。これまでの捜査では、森口はニューヨークへ国際布教の名目で宗教家と偽って飛んだ事までは警察が掴んでいましたが、その後の行方が分かっていません。 (情報は、元教団の方から)  以上、立花』

「被害者は『聖正堂阿弥陀尼院』さんの本名と一致しますね」

「こんな不当な事があっていいのですか」

古川記者が雑学の力を発揮して、

「被害者が訴えない限り警察も動けないし、裁判にかける事も出来ませんよ。その被害者が亡くなったわけだからね。何もなかった事になるでしょう」

「なにかいい方法は無いのですか? このままだと『聖正堂阿弥陀尼院』さんが成仏出来ず幽霊になってしまいます。それに我々は約束したのですから・・・」

「まずは、サンパウロに戻ってジョージと話してみましょう。奴は元刑事だから、きっといい解決策があると思う」

ジョージを知らない黒澤和尚が、

「古川さん、その元刑事とは」

中嶋和尚が古川記者に代わって、

「私はそのジョージさんにお世話になっています」

第二十一章 魔羅

『聖正堂阿弥陀尼院』との約束を交わした古川記者と中嶋和尚は急いでサンパウロに戻った。

戻った日の夕方、ジョージのアパートで、

「ジョージさん、古川さんが会いたいそうです。会っていただけませんか?」

「取材以外ならいいですよ。奴の『何でも取材』と云う態度が嫌いなんだ」

「七時に居酒屋『桃太郎』で合うようになっています」

「七時?! もう七時五分前ですよ」

十分遅れで中嶋和尚とジョージは『桃太郎』に着いた。

古川記者は珍しく飲料水を飲んで待っていた。

「中嶋さんをローランジアに連れて行ってもらい、どうも」

握手まではしなかったが態度からしてジョージと古川記者の関係はまあまあの雰囲気だ。

ジョージはビールを注文しながら、

「で、願い事とは?」

「実は、ローランジアで・・・(ローランジアでの出来事を一部始終話す)・・・と、信じられない事があって、それで、どうすればいいかジョージの意見を聞こうと・・・」

「信じられない話だが・・・。しかし、俺も昔、カナネイアと云うところで不思議な経験したんだ。・・・・・・、中嶋さんもそれをみたんですか?」

「はい」

「中嶋さんが言うのであれば信用しましょう。・・・、その森口と云う男を逮捕し、裁判にかければいいんだな。じゃー、中嶋さん達が、彼女の代わりに訴え出ればいいじゃないですか。後は俺に任せて下さい」

「しかし、誰がこの訴えを信用するかな。ジョージさえまだ百パーセント信用していないだろう? 霊から聞いた話なんて誰も相手にしてくれないし」

「これだけの悪者だから自首はないだろう。となれば、自白させよう」

「どうやって?」

「簡単、簡単、銃口を奴の頭に向けて脅かせばいい」

「ジョージさん、そんな事すれは違反です」

「違反? 悪者は違反の塊なんですよ。そんな相手に、違反なんてありません」