「イパネマの娘」の世界的大ヒットから50年を迎えるブラジルだが、それにタイミングを合わせたような企画が進行している。この4月、5枚のボサノバの名盤が、昔なつかしいLPサイズのアナログ盤として国内で再発される。
ブラジルでも、「アナログ盤による名作復刻」の流れがないわけではなかった。だが、日本人からしてみれば意外なことかもしれないが、その復刻の対象となっていたのはブラジル国内のロックやMPBの名作で、実際のところ、これまでボサノバのそれはほとんど出ていなかった。
今回復刻される5枚は、ボサノバの全盛期を支えたレコード会社、「エレンコ」の作品のもので、現在の南米唯一のアナログ・レコードの会社、ポリソムから発行される。対象となる5枚は「カイーミ・ヴィジタ・トム/ドリヴァル・カイーミ&アントニオ・カルロス・ジョビン」(1964年)、「ヴィニシウス&オデッタ・ララ/ヴィニシウス・デ・モラエス&オデッタ・ララ」(63年)、「ヴィニシウス&カイーミ・ノ・ズンズン/ヴィニシウス・デ・モラエス&ドリヴァル・カイーミ」(66年)、「ナラ/ナラ・レオン」(64年)、「ボッサ・ノヴァ・ヨルキ/セルジオ・メンデス」(67年)だ。いずれもボサノバでは名盤とされ、ジャケット・カバーのデザインも「おしゃれ」と今日まで愛されている作品だ。
エレンコの特徴としては、「大物ミュージシャンの共演」を実現させていたことで知られる。それは同社の名物プロデューサー、アロイージオ・デ・オリヴェイラの手腕によるものが大きい。カイーミ、ヴィニシウス、トム・ジョビンといった大御所のほかに、名編曲者、演奏者として知られるモアシル・サントスなども絡んでいるのが見逃せない。
エリス・レジーナと並ぶ女性ボサノバ歌手、ナラ・レオンのデビュー作もこのエレンコからはじまっている。
さらに、リオのジャズ・ミュージシャンからニューヨークに渡って成功し、世界的にボサノバを流行らせたセルジオ・メンデスの盤は、彼がアメリカにわたってはじめて録音した作品として知られるものだ。これ以降、彼は「マシュ・ケ・ナダ」などの大ヒットで一躍有名となる。
これらの盤は、実際には本当に短かったボサノバの黄金期の息吹を伝える貴重な瞬間を残してくれる作品だ。「ブームとしてのボサノバ」を終わらせたものは二つある。ひとつは、ボサノバ・ブームと奇しくも同じ年に、その何倍もの規模で起こった、ビートルズを筆頭としたロック・バンドの大ブーム。そしてもうひとつは、1964年3月31日に勃発したブラジルでの軍事政権の誕生。セルジオ・メンデスがニューヨークに渡った直接的な理由も、リオの自宅周辺が軍隊によって包囲されたのを目の当たりにしたことで、以前自分を誉めてくれたアメリカ人プロデューサーの元を尋ねることを決意したからであった。(23日付エスタード紙などより)