取材に満足しペンを納めながら古川記者が、
「それで、森口をどうやって逮捕すれば」
黙って話を聞いていたジョージが、
「それにはまず理由がいる」
「理由?」
「逮捕や裁判する理由だ、それをなんとかしなくては・・・」
「ジョージ、でっち上げはダメだぞ」
「いやー、まさに、それを考えていたところなんだ。それも合法的に・・・」
「合法的に?」
「法的に奴の盲点を突くんだ。例えば、麻薬の密売とか」
「ジョージがよく使うデッチ上げの手だな」
「デッチ上げは簡単じゃない。ブラジルでは、麻薬は販売人しか罪にならず、使用者や三十グラム以下の携帯は逆に中毒患者として保護されるんだ」
「東南アジアでは五グラム以上の携帯は死刑だぞ」
「ブラジルに死刑はないんだ。ブラジルでは、十人殺すと一人につき仮に十年の刑として、合計で百年の刑が言い渡されるが、ブラジルの最高刑は三十年と限度が設けられているから、結局は三十年刑務所に居ればいいんだ。それに刑務所内で問題を起こさず、模範受刑者であれば、その六分の一で釈放されるんだ」
「六分の一! それだと十人殺して五年ですよね。ジョージさん、それ、冗談でしょう!」
「ほんとです。だからブラジルでは犯罪を犯す価値があるんですよ」
「それは、罪に対して刑が軽過ぎますよ」
「刑じゃなくて、これは保護ですよ。警察も逮捕する意欲が沸きません」
「森口逮捕の理由は、ジョージへの暴力行為にすれば如何だろうか?」
「それも一つだが、俺が被害者なんてカッコ悪いし、他に、もっと決定的なものがいい」
ジョージは少し痛みが残る腹を摩って、眼を瞑って考え込んだ。
古川記者が、
「ジョージは昔デッチ上げの名人だっただろう? だから・・・」
「やめてくれ、刑事時代の事は! 行き過ぎもあったが、デッチ上げじゃない。どんな奴でもとことん調べ上げれば必ず留置所にブチ込む理由が出て来るんだ。古川だってブチ込もうと思えば簡単だ」
古川記者が驚いて、
「模範市民の俺をブタ箱に? 酔って立ち小便しただけだぞ!」
「この前、自慢していた取材用の高級カメラ、あれで充分だ」
「あのデジカメでなにが充分だ?」
「ブチ込む理由さ」
「あれは・・・日本の先輩から安く譲り受けたものだ。それが、ブタ箱とどう関係があるんだ?」
「あのカメラの領収書は?」
「なんで領収書が必要だ?個人的な売買だから・・・関係ないだろう?」
「そうだろうと思った。俺はあのカメラを盗品として没収し、訴えて、古川を窃盗容疑で逮捕する。いくらいい弁護士を付けても三日は留置所だな」
「あれは正当に売買された物で、盗品じゃないぞ」
「じゃー、領収書なしで、あのカメラが盗品じゃないと証明できるか?」
「えっ? ・・・、し、しかし、それだけで俺を?」
「無理かどうか試してみようか?」
雲行きが悪くなった古川記者は話を変えた。
「冗談よせよ・・・。森口の事だが、奴はニッケンホテルに宿泊しているぞ」
「ニッケンホテル?! 俺達の目と鼻の先じゃないか。ちょっと調べてくる。その間コーヒーブレイクで休憩してくれ」