「(ウエムラだ)」
「(逮捕に行くそうですね)」
ジョージはホテルでコピーした森口のチェックインカードを出し、
「(早速、逮捕状の手続きをしてくれ。これが奴の身元だ)」
「(これは個人情報侵害になるのでホテルは出してくれませんよ)」
「(『不法滞在者を匿った罪で訴える』と脅せば直ぐ手に入る)」
十分後、
「(どうした?逮捕状遅いじゃないか)」
「(判事のサインが取れません)」
「(判事がいないのか?)」
「(そうです)」
「(緊急事態だ。サインは俺がする。出発だ!)」
「(それは違反です!)」
「(落度は仕事に遅れた判事の方だ! 後で、奴のサインを必ず取る)」
「(どうして取れると確信出来るのですか?)」
「(サインする事で判事が仕事に遅れなかった証拠になるんだ)」
「(なーるほど、さすがウエムラ刑事は評判通りですね。勉強になります)」
三人はサンパウロに向かった。アレマン新米刑事が気を利かせて、モンテイロ・アキラ署長所有の回転灯を失敬して車の上に置いた。
サンパウロ市街に入って直ぐ、ジョージの日本製輸入車の回転灯に不審を抱いたパトカーが後ろに付き、サイレンを一吹きした。
ジョージは車を歩道に寄せた。
「(アレマン、たのむぞ)」
新米刑事は車を降り、五メートル距離をおいたパトカーにうかつに近づいた。
驚いた二人の警官はパトカーの両サイドのドアを開け、いきなりピストルを構え、無線で援護を求めた。
「(手を上げろ!)」
アレマンは、なんの抵抗も出来ず、言われるまま両手を上げた。
「(ヒザをつけ!)」
更に二台の救援パトカーが急行してジョージの輸入車を囲んだ。
「(バカだな、アレマンは)」ジョージは両手を上げて車から降りた。後ろから一人の警官がジョージの上げた両手を引き下ろし手錠を掛け、
「(回転灯の使用許可証は?)」
「(これは署長の物だ。任務で急行中だ!)」
「(輸入車で? おっ、ウエムラ刑事じゃないですか! 数年前・・・。覚えていませんか。第三インファンタリアのマグリオ・ネット少佐の部下です)」
「(あの検問所の、軽機関銃の警官か・・・、手錠を外してくれ)」
「(あの時、命を救ってもらい、ありがとうございました。こんな所で会うなんて、偶然ですね。どこへ?)」
「(犯人逮捕だ)」
「(ご一緒します。先導しますから回転灯を外して下さい)」
「(その前に、手錠を外してくれないか)」
「(あっ! はい)」
パトカーに先導され、東洋街のニッケンホテルに向かった。
パトカーとジョージの車はホテルの玄関広場に壁を作るように止まった。警官二人が玄関を堅め、もう一人の警官と二人の新米刑事が森口が潜んでいる803号室に向かった。
しばらくして、後ろ手に手錠を掛けられ、白い包帯を頭に巻いた森口が警官に引かれ現れた。
ジョージが開けたパトカーのドアに森口は警官に頭から押し込まれ、
「いてぇー、気を付けろ!」
「まだ痛むのか?」
「お、お前! あの時の二世・・・」
「そうだ、不法滞在で逮捕に来た」
連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(127)
ニッケイ新聞 2014年3月29日