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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(127)

ニッケイ新聞 2014年3月29日

「(ウエムラだ)」

「(逮捕に行くそうですね)」

ジョージはホテルでコピーした森口のチェックインカードを出し、

「(早速、逮捕状の手続きをしてくれ。これが奴の身元だ)」

「(これは個人情報侵害になるのでホテルは出してくれませんよ)」

「(『不法滞在者を匿った罪で訴える』と脅せば直ぐ手に入る)」

十分後、

「(どうした?逮捕状遅いじゃないか)」

「(判事のサインが取れません)」

「(判事がいないのか?)」

「(そうです)」

「(緊急事態だ。サインは俺がする。出発だ!)」

「(それは違反です!)」

「(落度は仕事に遅れた判事の方だ! 後で、奴のサインを必ず取る)」

「(どうして取れると確信出来るのですか?)」

「(サインする事で判事が仕事に遅れなかった証拠になるんだ)」

「(なーるほど、さすがウエムラ刑事は評判通りですね。勉強になります)」

 三人はサンパウロに向かった。アレマン新米刑事が気を利かせて、モンテイロ・アキラ署長所有の回転灯を失敬して車の上に置いた。

 サンパウロ市街に入って直ぐ、ジョージの日本製輸入車の回転灯に不審を抱いたパトカーが後ろに付き、サイレンを一吹きした。

 ジョージは車を歩道に寄せた。

「(アレマン、たのむぞ)」

 新米刑事は車を降り、五メートル距離をおいたパトカーにうかつに近づいた。

驚いた二人の警官はパトカーの両サイドのドアを開け、いきなりピストルを構え、無線で援護を求めた。

「(手を上げろ!)」

 アレマンは、なんの抵抗も出来ず、言われるまま両手を上げた。

「(ヒザをつけ!)」

 更に二台の救援パトカーが急行してジョージの輸入車を囲んだ。

「(バカだな、アレマンは)」ジョージは両手を上げて車から降りた。後ろから一人の警官がジョージの上げた両手を引き下ろし手錠を掛け、

「(回転灯の使用許可証は?)」

「(これは署長の物だ。任務で急行中だ!)」

「(輸入車で? おっ、ウエムラ刑事じゃないですか! 数年前・・・。覚えていませんか。第三インファンタリアのマグリオ・ネット少佐の部下です)」

「(あの検問所の、軽機関銃の警官か・・・、手錠を外してくれ)」

「(あの時、命を救ってもらい、ありがとうございました。こんな所で会うなんて、偶然ですね。どこへ?)」

「(犯人逮捕だ)」

「(ご一緒します。先導しますから回転灯を外して下さい)」

「(その前に、手錠を外してくれないか)」

「(あっ! はい)」

 パトカーに先導され、東洋街のニッケンホテルに向かった。

 パトカーとジョージの車はホテルの玄関広場に壁を作るように止まった。警官二人が玄関を堅め、もう一人の警官と二人の新米刑事が森口が潜んでいる803号室に向かった。

 しばらくして、後ろ手に手錠を掛けられ、白い包帯を頭に巻いた森口が警官に引かれ現れた。

 ジョージが開けたパトカーのドアに森口は警官に頭から押し込まれ、

「いてぇー、気を付けろ!」

「まだ痛むのか?」

「お、お前! あの時の二世・・・」

「そうだ、不法滞在で逮捕に来た」