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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(131)

ニッケイ新聞 2014年4月4日

 夕方、ジョージはインテルツール社で仕事を終えアパートに戻った。
「ジョージさん、夕飯が出来ています」中嶋和尚に迎えられた。
「いやー、いつも・・・、森口をブタ箱にいれました。少し疲れました」ジョージは冷蔵庫からビールを取出し、食卓に座った。
「お疲れの様ですね。さっき、古川記者からこちらに来ると連絡がありましたので、その分も用意しました」
「じゃー、奴が来るまで待ちましょう」
そう言った時、『ピンポン、ピンポン、ピンポン』古川記者特有の急かすチャイムが鳴った。
「古川さんだ」
中嶋和尚がドアを開け、
「ジョージさんが森口を捕まえました」
「それはよかった。さすがジョージだな」古川記者は進められた食卓に座る前に「領事館から新聞社に森口に関する記載要請があってね」
「なんだ? キサイヨウセイって?」
「新聞広告だ。内容は、写真入りで『森口卓彦氏、歳、身長、なんなにで、捜しております。情報をお持ちの方は電話・・・』と・・・」
「なぜ、領事館が森口の事を?」
「領事館の先輩の話では、こんな事は非常に珍しく、顔写真入りだと犯罪に関係しているのじゃないかと、それに、連絡先の副領事はどこかの県警から外務省に特別派遣された者だと・・・」
「ジョージさん、森口を渡しますか?」
「いや、ヒグチとの約束を果してからです」そして、ジョージが親指で自分を指し「日本の警察も追っているのなら、俺が領事館に問い合わせて、逆に領事館から森口の情報を取ろう」

翌日、約束時間の午前九時きっかりに、ジョージと新米刑事達は留置所に集合した。
「(日本人は? 後悔した様子はないか?)」
「(なにもないですね)」
「(アレマン、この番号の日本領事館に電話してくれないか。警察署からだと告げて、俺に受話器を)」
「(日本人を渡すのですか?)」
「(事情によっては・・・)」
ジョージから渡された番号にダイヤルした。
【(サンパウロ日本国総領事館です)】
「(こちらサンパウロ州軍警のアレマン刑事ですが、担当者ウエムラ刑事と替わります)・・・、替わりました。ウエムラと申します」ジョージは日本語で話した。
【二世の方ですか? 州軍警と言われましたね。なにか問題が?】領事館は相手が二世と知って日本語で対応を続けた。ジョージもそのまま日本語で、
「早速ですが、アメリカから五か月前にブラジルに入国したモリグチ・タクゲンの事でお聞きしたいのですが」
【森口卓彦?さんですね。ちょっとお待ち下さい。・・・・・・、担当領事と替わりますから・・・】一分ほど待たされた。
【遠藤副領事です。森口卓彦の事で質問があるそうですが】
「彼の情報が欲しいんですが」
【おたくは二世ですね?】
「そうです」
【名前は?】二世と分かった瞬間に遠藤副領事の言葉使いが変わった。
「ジョージ・ウエムラです。モリグチ氏の事でお伺いしたいのですが」
【州軍警の方だと言ったね。どうして彼の事が知りたいのだ?】
遠藤副領事は問い掛けには答えず、一方的に質問ばかりしてきた。
「不法滞在の件で、モリグチ氏の情報がそちらにないか電話しました
【ちょっと・・・、あのな、その様な件は、国際慣行、すなわち国際慣習に従って手続きを踏んでもらえないかな。いきなり、そう云う事をぶっつけに聞かれても返答に困るじゃないか】