ニッケイ新聞 2014年4月17日
「ひどい話。時効にされてしまったら終わり。裁判官の解釈で全てが変わる。これがブラジルの司法よ」―。二審判決で一転、時効判決が下された藤本パトリシア被告の事件に関し、担当のエリアーネ・パサレリ検察官は本紙の電話取材に、失望感を隠せない様子でこう答えた。「すごい数の控訴審がある。こういうことは普通」。検察側としては上告しない構えだ。
サンパウロ州高等裁の渡部和夫元判事は、「この裁判が、普通の刑事裁判とは異なる重要な件だということを、高等裁の判事たちが認知していたかどうかも、判決を大きく左右したはず」と説明する。
一審を担当した判事はこの裁判が日本政府からブラジル政府に対して代理処罰申請を行った経緯で始まったもので、二国間の関係にかかわる重要な裁判であったことを理解していたのではないか、と同氏はみる。それが、2年2カ月の禁錮刑という有罪判決に影響したということだ。
ところが、高等裁では日々数多くの審理が行われているために迅速な処理が重視され、通常の刑事事件と同じ扱いで解釈して判決を下したのではないかと同氏はみている。「担当検察官が、判事らにこの裁判の背景や事情を詳細に説明したかどうかで、判決が変わった可能性はある」と話している。
05年10月の事故以後、被害者の山岡理子ちゃんの両親、山岡宏明・理恵夫妻は被告の身柄引き渡しを求めて署名活動を展開した。09年に代理処罰申請、当地の検察が起訴相当と認めて裁判が始まったのは10年11月のことだ。
13年8月に一審判決、控訴した結果、時効判決に終わった。しかし、これで〃終わり〃なのだろうか。
「ブラジルの刑事裁判では罪が軽い。だから民事裁判を早く起こすべきだったのではないか」―。渡部元判事は、同件に関してこう見解をのべる。二審で、高等裁の判事らは時効と判断したものの、無罪にしたわけではなく、あくまで2年に減刑しただけで有罪だったと認めている。
「時効になったとはいえ、刑事裁判で罪が認められたという事実がある」として、同氏は民事訴訟で損害賠償を取れる可能性を示唆したものの、「新民法では3年で時効になると定められている」とも。もし新たに民事裁判を起こすとすれば、日本に居ながらにしても委任状で訴訟はできるというが、新たに弁護士を雇い、全て一から始めなければならない。(詩)