スペインのバルセロナ所属の混血ブラジル人選手ダニエル・アルヴェスが、相手応援団が黒人差別の意味で投げたバナナを、「拾って食べる」という形で反対表明したことが話題を呼んだ。良い意味での「ブラジル人らしさ」が出た行為であり、有名賛同者が続々と出ている▼思えば、ブラジルでサッカーは1930年代から多人種や地域統合の要として重要な役割を担ってきた。1894年に英国から持ち込まれた当初、白人エリート階級だけが通うスポーツクラブの競技として始まった。1930年代に有名クラブで黒人選手を本格的に起用した先駆けはサンパウロ州ではコリンチャンス、リオ州ではバスコだったという▼第1回W杯がウルグアイで開催されたのは30年、ヴァルガス大統領が政権をとった年でもあった。彼はサッカーの特質を素早く見抜き、国技に育てようと考えた▼新興のサンパウロ州勢は32年、リオ連邦政府に対して護憲革命を起こし深いしこりが残った。ヴァルガスは翌33年にさっそく両州の交流促進のためにサッカーのリオサンパウロ州トーナメント戦を始めた。37年に独裁政権は愛国精神を強める政策を強化し、国ごとに鎬を削る国際大会、W杯優勝を目標にした▼戦後の50年、W杯決勝戦でウルグアイに痛恨の惜敗を喫したのをバネに58、62年と連続優勝を果たした。その立役者がサンパウロ州出身の主将ベリーニ、黒人のペレやジジ、リオ州出身でインディオの血をひくガリンシャらだ。その優勝は「混血優越主義」を決定的なものにし、地域と人種を統合した国民イメージを広く知らしめた。そんな意味を込めて、ダニエル選手はバナナを食べたに違いない。(深)