先日、知人A氏の誕生会に招かれた。訪れたのは、何組かの夫婦と、彼と同じ事務所で働くブラジル人Kさんの家族の面々。参加メンバーの半数である10人ほどを占めるKさんの大所帯ぶりに、参加者の一人の日系人は「お金を払うのはAさんなのに、こんなに連れてきて」と眉をひそめた▼そのKさんが別れた夫まで連れてきていたのには驚いた。日本では考えにくいが、当地では珍しくもないようだ。ブラジル人は家族を大事にする人が多く、私的、公的な関係の境目が曖昧で、「どこまでが〃身内〃か」と戸惑うことも多い。国がアテにならない当地において、頼りになるのは〃身内〃しかない▼そういえば別のブラジル人女性の知人からも、昨年仕事の都合で息子が外国転勤になったが、それを機に息子と別れた恋人は、今も彼女の家と家族付合いをしていると聞いた▼お互いに事情を納得し合って穏便に別れたのならまだしも、息子は転勤後に突如メールで一方的に別れを告げたというから、理解に苦しむ。女性としては憤慨して一切の関係を断ってもいいくらいだ。でも家族と付き合い続けているのだから、まるでそんなことは無関係に見える▼当地における「家族」や「身内」の概念は、日本のそれとは全く別物のようだ。汚職まみれの政府やスリ強盗――外部の敵が多ければ多いほど、損得や法規を超越して守りあう「身内」の結束は強まるのか▼あるいは「今ここ」を重んじる彼らにとって、過去はさほど重要ではなく、今この瞬間に触れ合える身内がいることが大事なのか。様々な過去の関係や付き合いを「しがらみ」と捉えがちな日本人には、そんな関係性がむしろ新鮮に映る。 (阿)