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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(151)

 多少は理解出来るであろう古川記者は、気を失って、貴重な取材を逃がしていた。
《それに、生命に関して米国の野郎が、九年前、ES細胞と云う細胞再生能力がある万能細胞を作製しおった。これは、授精卵の細胞分裂の途中から作り出される代物で、子宮に戻せば生命になるのじゃ。それゆえ我々は反対運動を仕掛け、その研究はなんとか阻止出来たが、今度は京大の山中伸弥生物学者が『薬師如来』さまが左手に持っておられる薬壺(やっこ)の中の霊薬を盗み出し、長生きが可能となる秘密を暴き、それに謎の四つのデ・エヌ・ア液素(エキス)を加えおってiPSと名乗る新型万能細胞を創りもうした》
「それが?」
《この万能細胞は、命の不可逆劣化計画書に逆らって、細胞を初期化させ、神さまの聖域である生命制御を可能にするのだ。この研究がもっと進めば、仏国土で『輪廻』の真似ではないかと大騒ぎになるであろう。それから神界の科学アカデ;亜科廷ミー;観研究所が自然界の過力負荷(ストレス)を使って有機のエキス;液素から生命を創り、微生物へ発展させ、三十八億年間失敗をくり返しやっと作り上げた神を崇ませる霊長類の万能細胞特許をいとも簡単に試験管の中で作りおって・・・、全く人間はなにを考えておるのじゃ!》
《村山羅衆、そう怒らず、霊静(れいせい)になって下さい。我々だって元は人間なんでござんすから》
「神界はそんなに失敗を重ねたのですか?」
《失敗の連続だったそうだ。最初、地球の環境に優しい爬虫類を基盤に何万もの試作品を作りおったが、霊長類になる為の大脳が発達せず、身体だけが発達する不良品の恐竜と申す化け物が氾濫し、数十億年もの研究成果を絶滅させねばならなかったそうじゃ。神界はそれにこりず、今度は哺乳類を基盤に研究を始め、また、長―い年月をかけて神を崇める頭脳を持った霊長類、人間を創ったのじゃ。それで、神の存在が可能となったのでござる》
《先輩! 神ではない『仏さま』の存在はどうなっちまうんですか?》
《『仏』とは神々に認められ、神々から崇められた始めての人間なのである》
《神が崇めた人間? それ本当ですかい?》
《古代インドの全ての神々が帰依して崇めた人間『釈迦如来』さまがそれじゃ。だから、人間はお釈迦さまの様に生きなければならぬのじゃが・・・》
《お釈迦さまみたいに? そりゃー無理ってもんだ!》
《無理はわかっておるが、最近、その人間どもが神に逆らってとんでもない事を始めおって》
《神に逆らって?》
《宇宙や人間を創造した神と競って、今度はそれを追い越そうとしておる》
「人間が神を追い越す? そんな事、絶対にありえません」
《仏界に飽きたらず、今度は、神界に挑戦して、新種の生命を作り自分が神にな;為り上がろうとしておるではないか》
「その新しいタイプの生命とは? なんでしょうか?」
《神が想像もしていなかった人間独自の発想で、無機物生命と云う代物だ》
「無機物生命?」
《無機物で構成されたその生命も急速に霊長類に近づいておるのじゃ》
「?なんだろう、それは・・・・・・?」
《労歩徒(ロボット)と云って、半世紀前に手塚治と云う図書きによって『鉄腕アトム』と云う名の企画で基本設計され、発展してきた生物じゃ》
「あれは漫画と云うもので、それに、ロボットは単なる機械ですよ」
《そう云えば、手塚治の設計図通り、ある日本人が労歩徒に感情を与えたそうですね》