「私が失ったものを誰が返してくれる?」。コーロル元大統領は上院で4月28日、感極まった様子でそう演説をした。「23年間、私への疑惑と不正義を示唆する言動や眼差しにひたすら耐えてきた」という言葉を聞き、ブラジルの民主主義の未熟さを痛感した▼92年12月、国民とマスコミは湧きあがる抗議行動によって〃不正を働く大統領〃の職責剥奪(Impeachment)をしたはずだった。あの時の民衆とマスコミの興奮具合はすごかった▼ところが最高裁は4月28日、コーロル最後の疑惑であった公金横領問題を、他の件同様に証拠不十分で否決した。この結果、マスコミと野党がねつ造した〃証拠〃を元に、国民的な抗議行動が起きて議会が動かされ、民主的な手続きで大統領が罷免させられたという不恰好な〃事実〃が歴史上残された▼サンパウロ州海岸部グアルジャーで3日、女性が近隣住民100人以上から黒魔術師の噂を立てられリンチで殺されたニュースに接し、ある意味、コーロルも国民とマスコミから〃民主主義的リンチ〃を受けたのかと考え込んだ▼世界から注目を浴びるW杯を直前に控え、時間をかけて政策論争を国民に浸透させるより、分かりやすい疑惑を暴露して国民が街頭に出て抗議し、それで政治の何かが変われば「民主主義の勝利」であるかのような短絡的な雰囲気が漂っている▼コーロル免罪報道はどのテレビ、新聞も扱いが見事に小さい。まるで自分たちが加担した過ちを過小評価するかのようだ。ブラジルの民主主義がこの件からくみ取るべき教訓は大きい。職責剥奪手続きのどこに間違いがあったのか、しっかり追求すべきだ。(深)