ホーム | 日系社会ニュース | 「大学の授業で移民論を!」=和歌山市民図書館=中谷智樹さんが提言=日本唯一の公立移民資料室=ブラジル移民など8千点を所蔵
「若い人に移民のことを伝えたい」と語る中谷さん
「若い人に移民のことを伝えたい」と語る中谷さん

「大学の授業で移民論を!」=和歌山市民図書館=中谷智樹さんが提言=日本唯一の公立移民資料室=ブラジル移民など8千点を所蔵

 「移民のことを若い人に伝えるのが移民資料室の使命です」。4月27日の和歌山県人会創立60周年式典への母県慶祝団の一員として駆けつけた、和歌山市民図書館の中谷智樹副事務長(58、和歌山)=和歌山市在住=は、そう本紙に思いのたけを語った。同図書館の特徴は「移民資料室」を持つこと。「日本には公立図書館が3千余りあるが、移民資料室があるのは唯一」と中谷さんは胸を張る。

 移民資料室には本や雑誌を含めて約8千点もの関係資料を所蔵する。国会図書館にも多数の移民資料があるが、「一カ所にまとまっていない」という。その他では民間の日本力行会(東京都)やJICA横浜の海外移住資料館の資料室などしかない。
 「全国の古本屋に探しに行き、問い合わせをして買い集めました」というだけに貴重な資料が揃っている。
 ブラジル関係では戦前の邦字紙『サンパウロ州新報』『伯剌西爾時報』『日伯新聞』のマイクロフィルムも所蔵されている。米国の邦字紙では『羅府新報』や『新世界』、戦前に海外興業株式会社が刊行していた雑誌『植民』が80冊もあり、同サイトで目次検索ができる。
 市民図書館が開館したのは1981年7月で、3年間の準備期間を経て、84年12月に移民資料室が発足した。「どこの図書館も同じような本ばかり。特色のある収集品が欲しい」との当初からの願いがあった。「当時の和歌山市長(宇治田省三)が、米国移民で強制収容所の記録を絵画として残した画家ヘンリー杉本の親戚だった関係で移民に造詣が深く、『和歌山は移民が盛んだったから』とトントン拍子で設置が決まった」と振りかえる。
 中谷さんは83年から同館に勤務し、移民資料室を担当する。専門員の野口敬子さんの協力を受け、目録の作成や資料収集を通して専門的な知識を身に着けていった。
 「移民資料室の後に日本移民学会(91年)が設立され、国会図書館も本格的に移民資料を収集するようになった。そのキッカケになったと自負している」という。
 かつて、ある研究者から「『移民は棄民である』と思われていたから、学問的には取るに足らないとされたため、専門家が少ない」と云われた。それに対し、中谷さんは別の考えを持っている。グローバル化した現代だからこそ、「来日外国人のことを理解するために、まず日本移民のことを知ってほしい」と強調する。「多文化共生というよりも、自分たちの歴史として戦争中の日本移民迫害のことを知っていれば、国内の外国人への態度も変わるはず」との想いを語った。
 「学校の教科書に移民の話がもっと載るべきだと思うし、大学の授業でもぜひ『移民論』をやってほしい。そうなれば、若者がもっと移民のことに関心を持つようになる」と提案した。【同図書館住所=和歌山市湊本町3丁目1番地、電話=073・432・0010】