先週末から公開中の映画『グランデ・ビットリア(偉大な勝利)』(ステファノ・ラピエトラ監督)を見た。もう日本ですら久しく作られていない柔道映画が、ブラジルで制作されたことに深い感慨を覚えた。「移民が伝えた東洋哲学がブラジル文化を補完する」との図式が見事に当てはまる作品だ▼父に捨てられた母子家庭の少年が、学校でケンカばかりして退学させられそうになって柔道を薦められ、勝敗だけでない「生き方の哲学」としての柔道に目覚めていく物語だ。爽やか青春ドラマになっており、当地の青少年にぜひ見てほしい作品だ。孫やひ孫に入場券代を渡してでも観させてほしい▼原作者マックス・トロンビーニさんに「他のスポーツとの違いは何か」と質問したら、「例えばサッカーは金儲けの手段、貧乏に生まれた少年が金持ちになるための数少ない手段だ。だが柔道は勝つことを目指すだけのスポーツではない。生活態度や人生への考え方も含めて鍛えられる総合的なもの。ブラジルに足りないものが柔道にはある。それを広めることで馬欠場卯一郎先生の教えに応えたい」と言われ、考え込んだ▼W杯1カ月前にこんなことを言うのも何だが、「サッカーに人生哲学があるか」といえば、ほぼ即物的な戦術しかない。武士道精神は生き方、長期的〃戦略〃だ。この映画が全伯で見られることで当地独自の〃サッカー道〃に発展しないか。バルセロナに入団して大金を稼ぐことだけがスセッソ(成功)ではない▼青少年がサッカーに熱中することで倫理や道徳まで鍛えられれば、どれだけこの国の発展に寄与するか。せっかくのW杯を機にそんな方向性を真剣に考えてほしい。(深)