「今日はパルケ・ノーヴォ・ムンド住民にとって歴史的な日。PIPAは素晴らしいプロジェクトだ。ぜひW杯本番では日本代表もブラジル代表も全力を尽くして戦ってほしい」。援協が運営する自閉症児療育学級「青空学級」(PIPA、井上健治代表)のあるサンパウロ市東部ノーヴォ・ムンド地区を所轄する軍警察署のカシオ・ペレイラ・ノバエス署長(大尉)は13日午前、今週末18日に初の公式試合(全伯選手権)を控えて完成を急ぐアレーナ・コリンチャンス(通称イタケロン)に子どもたちを招待し、そう語りかけた。
PIPAでは4月から毎週、警察署の前あたりから学校周辺まで、14人の子ども達が作業療法として清掃を始めた。子どもたちの姿に共感した警察署では療育に協力するため、今までに軍警騎兵部隊、警察犬訓練センター、消防隊にも招待していた。今回は来月にW拝開幕試合を控えたイタケロン見学となった。
パトカー3台、白バイ2台が護衛する〃VIP待遇〃の中、警察が用意したマイクロバスで朝9時過ぎに出発し、30分ほどで到着する。
PIPA教師陣はみな地元民であり、W杯開幕会場に強い誇りを持っている。その一人、勤務2年目のラファル・ヴィエイラさん(30)は、6月12日にセレソンが座る選手控えベンチに陣取りながら、まぶしそうに観客席を仰ぎ見た。「僕はサンパウリーノ(SPFCファン)だが、W杯は全サッカー愛好家の羨望の的。たとえコリンチャンスの拠点であっても、この施設の威容は東部住民の誇りだ」と感動した面持ちで語った。
「でもちょっと完成が遅れているようだね」と工事中の部分が目立つ客席を指さしながら表情を曇らせた。さらに「イタケロンもそうだが、PIPAも全伯に先駆けたプロジェクト。こちらももっと知られるべきもの」と両方を比べて誇らしげに胸を叩いた。
子どもらは芝生の上ではしゃぎながらも、先生の指示に従って行動した。選手着替え室も特別に見学できることになり、セレソンになったかのように並んで座った。さっそくトイレも使い、その立派さに先生らも驚いていた。ただし、ジャグジーバス(泡水流風呂)は工事中で、作業員は「後は仕上げだけ」と言いながら忙しそうにセメントを捏ねた。
引率のルカス・ガマ軍警指導官も「子どもたちが喜んでくれてよかった。歴史に残る場所に連れて来た甲斐があった」と笑顔を浮かべた。軍警らも競うように記念写真を撮るなど、子ども以上に視察を喜んでいた。
5年ぶりのブラジル長期赴任を3月からしている自閉症児療育の専門家・三枝たか子さん(67、岩手)=東京在住=も、「親が連れていける場所は限られている。みんなで楽しくサッカー場に来た経験は、楽しい刺激として刻まれ、良い印象として残るはず。子どもに良い経験をさせてもらった。軍警に感謝したい」と述べた。