ホーム | ブラジル国内ニュース(アーカイブ) | コリンチアーノの心意気=命懸けてもスタジアム守る

コリンチアーノの心意気=命懸けてもスタジアム守る

 ワールドカップ(以下W杯)に反対する抗議行動などが展開された15日、サンパウロ市東部イタケーラ地区でアレーナ・コリンチャンスを目指して進む赤シャツの一隊がいた。
 この一隊は、アレーナから4キロのところにある私有地に不法侵入してテントを張ったりしているホームレス労働者運動(MTST)の一団で、他地域でも行われたMTSTの住居要請行動と並行した抗議行動を行うべく、市東部の幹線道路、ラジアル・レステの封鎖などを行った。
 ところがこの時、約20人のメンバーが隊から離れ、アレーナの近くの路上にバリケードを築いて火をつけるためのタイヤを取りに行った時、不思議な動きが見られた。赤いシャツを着たメンバー10人が、自分がタイヤを運んでやると言わんばかりにタイヤを抱えると、おもむろに草むらに投げ捨てたのだ。
 その中の一人は、「俺達の家を燃やすな!」と叫び、コリンチャンスの応援団ガヴィオンエス・ダ・フィエルのメンバーだと明かした。
 MTSTの一隊は再びタイヤを集めると、よりアレーナに近いところまで前進し、タイヤに火をつけたが、MTSTがアレーナを破壊したりする事がないよう、列を成した軍警の傍には、ガヴィオンエス・ダ・フィエルともうひとつのコリンチャンス応援団、カミーザ12のメンバーら総計80人の姿も見られた。
 MTST約2千人に対してガヴィオンエスのメンバーらは約80人。どう考えても勝ち目はないが、この時集まったのは「アレーナを守るためなら相手を殺す事さえ辞さない」面々だ。
 ブラジルでは熱狂的な応援団メンバーが他チームの応援団メンバーと抗争事件などを起こす例が多々あるが、MTSTの中にいたメンバー達からの情報でアレーナを守るために結集を呼びかけたのがガヴィオンエスやカミーザ12だ。
 当然ながら、アレーナ初の公式戦である18日の対フィゲイレンセ戦にもパカエンブーで観戦する時よりもずっと早く着き、アレーナ内の見学や写真撮影などを行うメンバーが居た。ルス駅からの特別急行第1便に乗ったメンバーがイタケーラ駅に着いたのは1時半頃で、以後、続々と到着したメンバーは観客席でも大きな隊旗を広げるなどしてチームを応援。
 もちろん、入場料等に文句がある応援団員もいたし、「自分達の家」の最初の試合で負けた事で選手への苦情も出た。だが、胸を張って「自分達の家」といえるアレーナを手にしたコリンチアーノ達が怒るのは、本気でチームを愛するからだしもっとやれたはずと思う気持ちゆえだ。
 マノ監督は、「選手達の気持ちの高ぶりが裏目に出た」と述懐したが、これからのアレーナの歴史はファンと監督、選手が一体となって刻まれていく。応援団員達が命がけで守ろうとしたアレーナは観客席の増設工事がまだ続いているが、W杯本番の6月12日までには全てが整い、世界中のサッカーファンを熱狂させる開会式、開幕戦が展開される事を望みたい。