「この60年間で100万人近くのブラジル人が私刑(リンチ)やその試みに参加した」とUSPの社会学者ジョゼ・デ・ソウザ・マルチンス教授は11日付エスタード紙で警告した。英国ケンブリッジ大学でも教えた高名な学者だ▼グアルジャで主婦が黒魔術師と間違えられてリンチ殺人された事件は、特殊な事例ではなく、当地の集団心理の奥深くに根を張った病根だと分析する。現場映像があったのでニュースにされやすかった▼同教授は08年にリンチ現象を調べた社会学研究を発表した。それ以前の30年間に2千件のリンチ事件の調書が作られ、「加害者はほぼ罰されていない」「殺人事件の被害者が若者や子どもで性的被害があった場合、特にリンチに発展しやすい」との特徴を挙げる▼驚くことに「7・8%は無実の人が犠牲に」と同教授は同紙に書いた。グアルジャの主婦は氷山の一角だ。集中地域は大都市郊外でサンパウロ市、サルバドール市、リオ市の順、「世界で最もリンチが習慣化している国の一つ」とも▼「リンチ事件は近年特に増加している。昨年6月の抗議行動の前は週平均4件だったのが、その後はほぼ毎日1件となり、最近は2件に増えた」。同教授は「これが意味するのは、社会が管理下にないこと、治安状況などに関する民衆からの統治者への信頼が揺らいでいること」だと指摘する▼リンチ増加と連動する数字がある。抗議でバスが焼かれる件数も昨年6月以降一気に増えた。実に不気味な関連だ。大衆の深層心理に格差拡大による不満感やストレスが溜まってきているのか。これがW杯の機会に爆発すれば、とんでもなく暴力的な社会現象に発展する可能性がある。(深)