日本のブラジル学校は日伯いずれの政府からも公的な支援が受けられず、経済面でも教育の質の面でも課題を抱えていた。しかし09年7月より、ブラジル政府とブラジル銀行が400万ドルの費用負担をし、日伯政府が協力し4年半にわたって「遠隔教育による在日ブラジル人教育者向け教員養成講座」を開講し、昨年末、205人が教員免許を取得して卒業した。プロジェクトの調整役を務めた溝口シゲヨさん(三世、67)に、開講までの経緯や、成果、今後期待されることなどについて聞いた。
ブラジル側から見れば、経営母体が個人事業や会社方式の運営であるため、日本のブラジル学校は「単なる私立学校」と位置づけられ、従来は教育補助の対象外だった。その一方で日本では、教育法に基づいた学校として認められないために「私塾」扱いで、公的教育支援の対象外だった。つまりブラジル学校は両方の政府から公的支援を受けられなかった。
支援が受けられないことから、保護者や学校経営者への負担が過大なものとなり、さらに教員資格のない人たちが教壇に立っていたことから、教育の質がたびたび問題とされてきた。
それでも「いずれはブラジルへ帰るのでポ語を忘れないように」「日本の学校のいじめが怖い」などの理由で入学希望者があとを絶たず、2008年以前、多いときには100校を超えるブラジル学校が日本各地で開校していた。
05年にルーラ大統領(当時)が訪日した折りに在日ブラジル人と懇談した際、日本に住むブラジル人子弟たちが教育上困難な状況に置かれていることについての議論が沸騰した。
帰国後、大統領はブラジル銀行の社会貢献部に対し、対策を講ずるよう依頼する。これが約4年の準備調査を経て、子どもの教育に携わる無資格教員たち300人を対象とした、無償の教育学講座を提供し、初等教育(幼稚園・保育園から小学校4年生まで)の教員資格と学士を与えるこのプロジェクトとして結実した。
ブラジル側は、通信制遠隔教育の経験があるマット・グロッソ連邦大学(UFMT)が担当し、日本側では東海大学が名乗りをあげ、両大学の協力により、09年7月より開講した。ブラジル政府とブラジル銀行が約400万ドルの費用負担をし、「日本学」など特別授業は三井物産が費用を担った。日伯をまたいだ本格的なデカセギ子弟向けの教育プロジェクトとしては最初にして、実に画期的なものだった。(つづく、宮ケ迫ナンシー理沙記者)
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