チン・マイア、カズーサ、エリス・レジーナ、ヒタ・リー。このところ、60~80年代に活躍したブラジルの人気歌手たちの伝記が、ブラジル国内のミュージカルのひとつの主流になりつつあるが、そこにもうひとつ別の伝記が加わろうとしている。それが、29日からリオで上演がはじまっているカシア・エレールの伝記だ。
カシアは、これまで伝記家された歌手たちと比べると随分新しい名前だ。それもそのはず、彼女の最盛期は90年代で、10数年前まで人気歌手のひとりだった。
1990年に28歳でレコード・デビューしたカシアは、1993年にひとり息子のフランシスコ君(通称シコン)を出産した際、両性愛者であることを公表、マリア・エウジェーニア・ヴィエイラ・マルチンスさんを伴侶として生活していることも明らかにした。これはブラジル音楽界において、両性愛者であることを公に認めた最初の例として話題を呼んだ。
カシアはそのハスキーな特徴的な歌声と、楽曲的な傾向から、アコースティック・ギターの弾き語りながら、ロック系のファンからも強い支持を集めていたが、2001年12月29日に薬物中毒で39歳の若さで世を去った。この年の1月には「ロック・イン・リオ」に出演して好評も得て、歌手人生の頂点に達しようとしている瞬間での死であったことから話題を呼び、結果的に遺作となった「MTVアクースチコ」はミリオンセラーを記録した。
そんなカシアの伝記ミュージカルの話は4年前から進行していた。企画はカシアの恋人のマリアさんの協力を得て進んだはずだったが、シコン君をはじめとした遺族が製作者側の意向に次々と反対したため、当初演出予定だったエルネスト・ピッコロ氏が降板する波乱も起きた。
製作者側は、チン・マイアとカズーサのミュージカルの演出を手がけたジョアン・フォンセカ氏を新任に迎え、大ヒット音楽映画「フランシスコの兄弟」のパトリシア・アンドラーデ氏を脚本に迎えるという豪華な製作陣で難航していた製作をなんとか乗り切り完成させた。
カシア役には、24歳のタシー・デ・カンポスが選ばれた。彼女はパラナ州クリチーバでカシアの曲を歌うことで知られたローカルの歌手で、役者経験はなかった。だが、声質や性的傾向、そして極度に内気な性格までカシアにそっくりで、批評的にもその点は評価されている。タシーは2時間で34曲のカシアの楽曲を歌う。
また、「生前にカシアと面識があった」というフォンセカ氏の演出も、遺族との確執が起こった後だったにもかかわらず、薬物問題を避けずに描きったものになっているという。(29日付フォーリャ紙などより)