W杯取材に続々と日本のマスコミが来伯している。彼らによく聞かれるのは「なぜこんなにW杯用の競技場やインフラ工事が遅れたのか?」という点だ。工事遅延が日常の当地において、改まってそう聞かれると面食らう。おそらく「身の丈以上の工事を計画しすぎた」「W杯効果を利用しようと欲張りすぎた結果」だろう▼ルーラ政権でPACが始まって以来、熟練工が不足し、そこにW杯、五輪の建設特需が加わった。遅れた挙句に出費が2、3倍になる案件は2面に連日報道中だ▼遅れて膨らんだ公共工事経費から政治家らが着服してスイス銀行に送るのも常套手段だ。パウロ・マルフ氏は1980年前後にサンパウロ州知事、93年から第2期サンパウロ市市長となり土建行政を推し進め、選挙民から「他の政治家は盗むばかり。奴も盗むが工事もちゃんと進める」と妙な評価をとった。英領バージン諸島に隠し財産があるとマスコミに公金横領疑惑でさんざ叩かれ、インターポールから国際指名手配中だが、今も立派な下院議員だ▼大サンパウロ市圏の水がめカンタレイラ水系の通常取水分が底をつき、湖底からの臨時取水が始まった今週、マルフ氏はテレビCMを打ち「私が30年前(知事時代)にカンタレイラ水系を整備した後、誰も何もしなかった証拠」とあげつらった。これぐらい鉄面皮でないと大物にはなれない▼そんなツワモノがゴロゴロいるから、連邦会計検査(TCU)は公的資金が入る案件を厳しく検査し、怪しければ工事停止命令を出す。そうなると工事は遅れ、費用がかさむ。強者はそこからも抜こうとする。結局、社会の体質自体が変わらないと遅れはなくならないだろう。(深)