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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(173)

「あの世で井手善一和尚が『日本の水』旅行プランを企画され、たくさんの先駆者の仏が応募しているのをイマジネーションしました。井手善一和尚は仏界でも色々なアイデアで活躍なされているようです」
「ええっ!中嶋さん! 本当ですか? その旅行を取材しなくては!」
 西谷が、
「皆さん、この辺でお茶会を終わらせましょう。皆さんご苦労さまでした。仏様も大喜びでした」

 スザノ市の『金剛聖寺』(架空)を後にした一行は、古川記者の運転で、二時間後、インテルツール旅行社に着いた。
「残念!『聖正堂阿弥陀尼院』さんとの前代未聞のインタビューを逃がし・・・」古川記者が未練がましく嘆きながら車から降りた。
 カヨ子さんがワイヤレスの受話器を持って一行を迎えた。
「(サンパウロ総領事館からよ。うるさく電話してくるのよ、ジョージさん、又、領事館とイザコザを起こしたの?)」
 ジョージはカヨ子さんを睨みつけてから受話器を取り、
「ウエムラです!」
【サンパウロ総領事館の西です。ずっと探していました。貴方の秘書が貴方の携帯電話を教えてくれなくて困りましたよ】
「別に、番号を教えても差し支えないんですがね? お電話されたのは森口の件でしょう? それが、実はその~、今から・・・その件で、」
【そうです。森口の件で電話しました。、どうも有難う御座いました。森口の情報をいただき、無事、身柄を拘束できました】
「森口を逮捕した?!」
【はい、ブラジルの連邦警察との連携も上手く行って・・・、それから森口が自白しましたよ!】
「自白しましたか、それはよかったですね。二十数億円は無事に・・・」
【勿論ですが、貴方がおっしゃった殺人の件ですよ! それをお伝えしようと、お電話しました】
「えっ! 森口が殺人を白状したんですか?」
 その話を脇で聞いていた皆は、歓声を上げて喜んだ。
【そうです! それでですね。・・・、ジョージさん、もしもし・・・】ジョージは受話器をそのままに、
「中嶋さん! 森口が殺人を白状したそうです」
「だから、『聖正堂阿弥陀尼院』(せいしょうどうあみだにん)さんが『大過を逃れ、そうず;葬頭がわ;川を無事渡りもうされた』訳ですね」
「アロー!、ニシさん! 失礼しました。ちょっとお聞きしたい事が、誰が森口の情報をもたらしたんですか?」
【ジョージさんが領事館によこした村山さんと小川さんですよ。取押えにも協力していただき、本当に有難う御座いました】
「ええっ! 村山と小川がですか?!」
 一同、顔を見合って沈黙した。
【もしもし、ウエムラさん、一度、是非お会いしてお礼を、もしもし・・・】

 一週間後、東洋街で繁盛一番の『ポルケ・シン』食堂で、
「『聖観音』が盗まれた~!」
「店長! お賽銭はそのままですし、盗まれたのじゃないですよこれは!」
「では、どうして無くなったのだ?」
「当り前でしょう!、こんな騒がしい食堂に観音さまを置くなんてとんでもねー。それで、とうとう我慢できず家出しやがったんだ」と、日本から遊びに来て、そのまま給仕として居座った小川と云う背の低い店員に言われ、オーナーの前田氏は警察に盗難届けするのをあきらめた。