サンパウロ市から北西に約100キロに位置する閑静な町イトゥー。W杯期間中、日本代表チームがキャンプ地として使用する同市は人口約16万人で、日系人も多いほか、日本企業7社が工場を構えるなど日本とのつながりが深い。また、同市と名前の響きが似ており、観光都市という点でも共通点がある静岡県伊東市との姉妹都市提携計画もある。日本代表の到着の機会に、今後ますます日本との交流が深まると期待される同市の市長にインタビューし、観光地としての魅力や日本との関わりなどを紹介する。
時はバンデイランテスの開拓時代、開拓者の一人ドミンゴス・フェルナンデスが1610年に小教会を設置し、その周辺に小さな集落ができていったことが始まりだ。
イトゥーという名前は、「巨大な水の落下」を意味するトゥピー・グァラニー語のUtu-Guacuが変化したもので、チエテ川にある同じ名前の滝に由来する。
イトゥー村は1842年2月に市に昇格、同年に、当時国内各地で起きていた自由革命(Revolucao Liberal)に、300人から成る軍隊を送り込んだ。帝政だった1873年、最初の共和政主義者の集会所Magna Convencao do Partido Republicanoが設置され、89年の共和政宣言に至ったことから、〃共和国誕生の地〃とも呼ばれる。
経済面では、帝政時代にはサトウキビの栽培で栄えた。1935年頃まではコーヒーの産地でもあり、その時代にイタリア移民が多く入植した。
1950年代から工場が町の各地にでき始め、この頃に仕事を求めて労働者が大量に押し寄せ、1968年にカステロ・ブランコ街道ができると、市内に新しく工場が次々とできていった。
現在は市民の生活レベルの高さでも知られ、専門技術者を育成する州立工科専門学校(FATEC)、州立技術学校(ETEC)、工業実習サービス機関(SENAI)などを擁する。
また、環境保護にも力を入れており、374ヘクタールの敷地に植樹を行う森林再生プロジェクトも実施している。
アントニオ・ルイス・ゴメス市長に聞く=「もっとこの町知ってほしい」=市税収の40%は日本企業
質問=日本代表を迎えるに当たり、市としてはどのような準備をしていますか。
回答=日 本代表と関係者の皆さんは7日に到着され、翌日、市立の学校の生徒が地域の伝統の踊りを踊って歓迎しました。イトゥー日系文化体育協会(Acendi)と 合同で、6月14日、15日に日本を顕彰するお祭りも広場(Praca da Matriz)で開催します。そこでは日本の踊りや食べ物、アトラクションで日本移民とその子孫を称えます。
質問=市ではどのような反応が起きていますか。どれぐらいの日本人観光客の訪問を見込んでいますか。
回答=W杯期間中は、少なくとも1万人の外国人の訪問を見込んでいます。日本代表以外にロシア代表も迎えるので、各代表それぞれ2千ずつのマスコミ関係者が来られる予定です。
質問=イトゥーには多くの日系人がいます。彼らの存在は市にとってどのようなものですか。
回答=日系コロニアの存在は市において特筆に価するものです。勤勉で努力家であり、特に工業、商業、農業、観光業などの分野での活躍が著しく、市の発展に貢献されています。
質問=市の税収の約40%が、日本の進出企業7社によるものだそうですね。今後もより日本企業の誘致をしたいとお考えですか。
回答=外国企業のイトゥーへの関心は今後も高まることと信じています。イトゥー市の魅力の一つはその交通の利便性にあります。充実した交通網があり空港から近い場所に位置しています。
また、工業誘致を目的とした税制面の優遇措置を設けており、市の雇用・産業発展支援課が投資のご相談を受けています。
質問=静岡県伊東市との姉妹提携計画に関しては、どのように考えますか。
回答=最 初に話が出た時からとても光栄に感じており、提携によって互いにメリットが生まれるものと信じています。両市は、観光地としての歴史と特徴を備えている点 が最も似ています。今後は文化交流をし、イトゥアーノ、ひいてはサンパウロ州民、ブラジル国民のことを知ってもらうため、私達の町に来ていただきたいと 思っています。
質問=この提携によって、観光業以外にはどういった面が強化されるといますか。
回答=観光以外の我々の町の強みは産業です。ここ数年、特にアジアからの進出企業を多数迎え、市の経済が強化されています。この提携によって、日本の投資家の方々からの注目がより集まるのではないかと期待します。
イトゥー市民の皆様へ
2014FIFAワールドカップでの、ブラジルと日本、両チームの活躍を願い、日本より声援を送ります。
貴市(ITU市)と当市(ITO市)のローマ字標記が類似していることや、貴市がブラジル大会における日本代表チームのベースキャンプ地であるというご縁を大切に、ワールドカップに向けて、両市の市民同士の交流の輪が広がっていくことを期待いたします。
また、今後も相互の地域の名産品の紹介などを通じ、両市の交流を深めてまいりたいと思います。
結びに、ニッケイ新聞のますますのご発展を心からご祈念申し上げますとともに、イトゥー市民の方のご健勝をお祈りいたします。
伊東市長 佃 弘巳
伊東市とイトゥー市の友好促進を祝して=在サンパウロ日本国総領事 福嶌 教輝
去る5月20日、公邸において、伊東市とイトゥー市の交流を祝うレセプションを祝いたしました。レセプションにはイトゥー市のアントニオ・トゥイーゼ市長 や伊東市の福井千鶴インタクロス研究会理事長(日本大学国際関係学部教授)、前田タネヨシ・イトゥー文協会長など多くの人が参加し、両市の交流を祝いまし た。
私は昨年来、何度も訪問してトゥイーゼ市長らと連携してサッカー日本代表、サポーター、プレスの方々などが同市で問題なく滞在できるよう、受入れ体制を整えるよう務めてまいりました。
そして6月7日には、前田イトゥー文協会長や木多喜八郎文長をはじめ、日系団体の代表の皆様と、キャンプ地である「スパ・スポーツ・リゾート」で日本代表 を迎え入れました。選手たちは長旅の疲れも見せず、その逞しい顔つきには、サッカーの本場ブラジルW杯で最高の結果を見せてやろうという気迫がみなぎって いました。
日本代表が、日系社会の中心ともいえるサンパウロ市からほど近いイトゥー市にキャンプを張ったことは、在サンパウロ総領事として大変 嬉しいことです。6月8日にソロカバ市で開催された公開練習では4、5000人ものサポーターが詰めかけたといわれ、大きな声援を代表選手に送りました。
日本サッカー協会の関係者によれば、過去の公開練習でこれほどの大人数が集まったことはないとのことです。日本代表もホームのような雰囲気の中、練習環境に恵まれたイトゥーの地で良い調整を積み、本番で最高のパフォーマンスを発揮してくれることと期待します。
イトゥー市は、3年前から日伯の少年サッカーの交流を進めている他、邦人企業も活発に活動し、立派な文協も存在し、日本とは強固な関係がすでに存在しまし た。この度は、この素晴らしい歴史あるイトゥーの町と、太平洋に面した風光明媚な伊東市が、このワールドカップを通じて交流が進むことになった次第であ り、何よりも喜ばしいことであります。今後さらに両市の友好親善交流が促進され、日伯両国の関係が強化されることを心より祈念しております。
伊東市との姉妹都市提携へ=リオ、東京五輪見すえて
発音が似ていることから、静岡県東部の観光都市・伊東市との間に姉妹都市交流へ向けた取り組みが始まっている。イベントや市長間の親書の交換も進んでおり、W杯を機に新しい日伯交流が進んでいる。
同市の観光協会、サッカー協会、伊東市国際交流協会などが企画した最初のイベントが3月末に行われ、市内のサッカーチームから約80人の少年が参加した。
4月28日付日刊スポーツ電子版によれば、今回のW杯に限らず2年後のリオ五輪、6年後の東京五輪をも見越した交流が構想されている。当地のコーヒー農家 に緑茶栽培を伝授したり、伊豆に国際基準の競技施設・伊豆ベロドロームがある利点を生かし、東京五輪では合宿地としてブラジル代表を招待する案もあるという。
実は交通利便な工業都市=キリンなど日本企業7社進出
大サンパウロ市圏、カンピーナス、ソロカーバなど州の主要都市から近く、幹線道路を通って容易にアクセスできる。ヴィラコッポス空港からわずか40キロ、コンゴーニャス、グァルーリョス両空港からも100キロという距離にある。
市内には、中心部から15キロの位置に面積100平米の新工業地区があり、進出に必要なインフラも整っている。また企業誘致のためその規模に関わらず、 IPTU(土地家屋税)、ITBT(不動産譲渡税)等の優遇や免除措置をとり、市役所には雇用・企業進出支援課を設けている。
日本企業は7社が進出しているが、そのうち2011年にスキンカリオール社を買収して進出した「ブラジル・キリン」は同市に本社を置き、日本代表公式スポンサーとしても有
名だ。
他にも自動車部品メーカーの「アイシン精機」は2011年に工場設立、現在は敷地内に新たな建屋を建設中で2016年にエンジン部品の生産も開始する見込みだ。
イトゥーの観光7大名所
観光都市(Prefeitura da Estancia Turistica)として知られるイトゥー市の7大観光名所を紹介する(イトゥー市役所HPより)。
(1)カンデラリア聖母教会。1780年設立で、有名建築家の故ラモス・デ・アゼベードも改築を手がけた。バロック、ロココ様式に伝統が感じられる。
(2)ボン・ジェズス教会。市の草創期に最初に設置された小教会があった場所に18世紀に建てられた。数度の改修を経て、ローマ建築に影響された外観へと変わった。
(3)カルモ聖母教会。独立広場前にあり、建物前にイトゥーを象徴するヤシの木がある。立派な建築郡が魅力的。1719年設立。
(4)パトロシニオ聖母教会。1860年代から、貧しい子供達の教育に尽くしたとされるフランス人シスターのマドレ・マリアの墓がある。1819年設立。
(5)コンベンソン・デ・イトゥー博物館。サンパウロの共和党員の集会所として機能した。50年目の1923年に当時のワシントン・ルイス大統領の命で改修が行われ、当時の共和政主義者に関する貴重な資料が残されている。
(6)レジメント・デオドーロ。市内で最も美しい建造物の一つ。コレジオ・サンルイスとしてローマ出身の神父により1867に設立され、1872年にはサンパウロ県内から来た400人の学生が学んだ。敷地内には博物館(Museu do Quartel)もある。
(7)ヴァルヴィト公園。敷地面積4万4千平米で、1995年に設立以来5万人以上が訪れた。長年にわたって形作られてきた堆積岩層がみられ、サンパウロ州歴史文 化考古学工芸遺産観光保護審議会(Condephaat)に認定された。敷地内には森、湖、野外劇場、滝、展示コーナーもある。
前田パーク
1998年に創設された「ペスケイロ・マエダ」は2012年6月に名称を「パルケ・マエダ」に変更し、総合的なレジャー施設となっている。トマト畑だった265アルケルの土地に釣堀、プール、日本庭園、リフトやスイス風ログハウス(82施設)、レストランを備える。
施設は、もともと往年のトマテイロ(トマト生産者)として名をはせた前田繁春さん(兵庫県出身)から土地を引き継いだ息子たちが始めたもので、経営者のアンドレさんが中心となり、640ヘクタールの農場の一部を造成した。
週末・祝日に利用できる1日パスポート(11以上80レ、5~10歳60レ)を購入すると、昼食込みで園内の各施設を利用できる。
問い合わせは同パーク(電話=2118・6200、ウェブサイト=www.parquemaeda.com.br)
何でも大きい?
”cidade onde tudo e grande”(何でも大きい町)との異名を持つイトゥー。同市出身のコメディアンでアーティストのフランシスコ・フラビオ・アルメイダことシンプリシオ (Simplicio、1916―2004)の発想で造られた巨大公衆電話、巨大信号機は、この町のシンボルだ。ともに町の中心の広場にある。
巨大信号機は全長7メートルで、1973年にサンパウロ州電話公社(TELESP、現在は民営化)が設置した。70年代に作られた巨大信号機はカンデラリア聖母教会前にあり、ただのオブジェではなく、本当の信号として機能している。