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JICA主導、交番プロジェクト=全州設置目指し第三期へ

 当地の治安向上を目指し、2005年より始まった日本の交番制度導入による「地域警察活動普及プロジェクト」が、新たな段階を迎えた。これまで同制度を導入したのは12州。今後全27州への導入を目指す連邦政府の要請を受け、JICAが年度内をめどに第三期プロジェクト(3年間)を始める。

 聖、ミナス、南大河の3州を拠点とした全土への技術移転が最終目標。しかし期限がわずか3年のため、ブラジルが自立発展的に全州に普及できる体制を整えることで実現を目指す。準備にあたり、木村公彦警視長(警察庁長官官房国際課 国際協力室長)はじめ5人の関係者が9日に訪れ、サンパウロ州内の交番で視察・指導を行った。
 サンパウロ州には約210カ所設置されている。前例のない中、モデル交番が中心となり、当地に合った地域警察の仕組みを試行錯誤しながら作り上げ、着実に効果を上げてきた。
 サンパウロ市ロータリー広場のモデル交番で交番長を務めるウィルソン・ジョルジ・ドス・サントス・アウヴェスさん(38)は、「100人住民がいれば、99人は犯罪者ではなく一般市民。自分はこの99人の市民のために働くのだと気づいた」と、地域住民のために献身的な取り組みを行う。交番内には「清掃」「清潔」などの文字。日本での研修から持ち帰ったものだという。
 浮浪者や麻薬中毒者が多かった交番横の広場は、今はすがすがしい空間に。交番が主催する子どものサッカー大会でもにぎわう。管轄区内の犯罪件数は約10年前に比べ、15分の1以下になったという。
 埼玉県警察本部・警察学校の渋谷明美警部補(43、埼玉)も、「3年前に来たよりも、随分町並みや子どもたちの表情が明るくなった」と喜び、サッカー大会、音楽コンサート、図書館設置など、各交番独自の活動にも目を見張った。
 一方、地域住民が警察に頼りきったり、多忙や業務過多で職員への負担が増えたりと、課題も多い。交番長は「警察内部でも交番活動への理解が薄い。上部組織による、認識を向上する取り組みが必要だ」などと5人の関係者に訴えた。
 木村警視長(45、大阪)は「元々ブラジルには予防的感覚が薄く、何かあった時に対処するスタイル。でも、犯罪予防としての交番という考え方は通用する」と話し、「継続的に続けるには後継者育成も含めた組織的体制が必要」と強調した。
 住民と警察が手を取り合うことで、犯罪を未然に防げるのが交番の強み。2016年のリオ五輪も控え、地域住民を巻き込んだ治安対策が期待される。