本日、いよいよ初陣だ=4年間の集大成はいかに=最低でもGL突破を期待
いよいよ本日14日午後10時から、日本代表がW杯初戦を迎える。大陸予選を通過した32カ国がAからHまでの8組に分かれ、4チームによる総当たり戦(グループリーグ、以下GL)を行う。各組上位2チーム計16チームが決勝トーナメント(以下決勝T)に進出し、7月12日の決勝(リオ・マラカナン)を目指す。C組に属する日本はアフリカの雄コートジボワール(14日、レシフェ)、堅守を誇るギリシャ(19日、ナタル)、強力攻撃陣を揃えるコロンビア(24日、クイアバ)と2枠を争うことになった。決勝T進出、さらにその先を賭けた戦いが今夜始まる。
決勝T進出は初戦が全て=黒星スタートは敗退率9割超
日本代表は7日夜、決戦の地ブラジルに到着した。離日直前の壮行試合(現地5月27日、対キプロス戦)では1―0で辛勝。その後の米フロリダ合宿では、現地2日にコスタリカ戦(3―1)、6日にザンビア戦(4―3)をこなす上で、攻撃陣は上々の結果を残し、守備面の課題が浮き彫りとなった。
今夜迎える初戦だが、決勝T進出か否かは第1戦目で全てが決まると言っていい。32カ国が参加する現行の大会方式となった98年から10年までの4大会の統計によれば、決勝Tに進出した64チームの内、黒星スタートでGLを勝ち抜けたのはスペイン(10年)、ガーナ、ウクライナ(06年)、トルコ(02年)のわずか4チームで、その確率6・25%だ。
反対に白星スタートとなれば約90%で決勝T進出というデータも。負ければ即敗退、最低でも引き分けで乗り越えないと、第2戦へ望みをつなげない重要な一戦となる。選手には酷だが、これまでの4年間がたった1試合で泡と消えるほどの意味合いを持つ。
コートジボアール=圧倒的パワー、スピード=破壊力抜群の攻撃陣に注意
初戦の相手コートジボワールには世界有数の攻撃陣が揃う。アフリカ大陸予選では8試合で19点をマーク(失点は7)。MFヤヤ・トゥーレ(マンチェスター・シティ=イングランド)は3年連続アフリカ最優秀選手に輝き、プレミアリーグ優勝の立役者となった。FWサロモン・カルー(リール=フランス)はリーグの得点ランク2位となり、非凡な得点能力を見せつけた。
FWジェルビーニョ(ASローマ=イタリア)は、イングランドからイタリア・セリエAに移籍し、得意のドリブル突破で相手をかく乱した。そして最前線には世界的ストライカーのディディエ・ドログバ(ガラタサライ=トルコ)が居座っている。36歳となり円熟期は越えただろうが、パワフルなシュートや、空中戦の強さは健在だ。
コートジボワールは守備よりも攻撃に強みを持ったチーム。圧倒的な個人技を放つ選手らが名を連ねる中で、組織として難があるのが弱点だろうか。チームとして連動した守備は得意ではなく、個人主義的なスタイルが印象的。90分間の中で煩雑なプレー、パスミスが一部見られたりと集中力を切らす場面もある。集中力を持ち続け、我慢強く戦うことが、優位に試合を運ぶポイントとなりそうだ。
攻撃の要は本田、香川=点取り屋の奮起も必要
日本代表で注目されるのは、攻撃の軸を担うMF本田圭佑と香川真司、点取り屋の役割を期待されるFW岡崎慎司、大久保嘉人、ディフェンスリーダーのDF吉田麻也、左サイドDF長友佑都。彼らが攻守の要となりそうだ。
司令塔のMF本田(ACミラン=イタリア)はベストコンディションでなく、不安材料の一つに挙げられる。ロシアのCSKAモスクワから今年1月、イタリアの名門ACミランへ移籍した。リーグ戦14試合1得点2アシストという結果に関し報道陣には、「14試合出れば6、7点は獲らなければ。つまり6分の1という出来」と自らを酷評した。
イタリアの報道ではミラン退団の可能性も浮上しているとか。向かい風が吹く中で汚名返上に燃えているだろう。しかし先の3試合では、日本の司令塔として物足りない部分が目立った。ボールを失う頻度、走力、スピード。一撃必殺のFKも全く枠を捉えず不発続きで、動きにキレが見られなかった。
しかし最後の強化試合ザンビア戦で、PK含め2得点をマークしたことは好材料だった。本人にとって、どれだけ精神的な負担が取り除かれたか気になるところだ。
彼のプレースタイルはボールを受け、キープしパスを出す役割。攻撃陣を牽引するだけに、勝敗に大きく影響する。日本での報道では過度に期待値が高いが、理由は前回大会にある。初戦カメルーン戦で先制点を奪い、第3戦デンマーク戦でも長距離から得意の無回転FKを突き刺して、自国開催以外では初となる決勝トーナメント進出に導いた。
当時チームの中心だったMF中村俊輔(横浜Fマリノス)をベンチに押しのけ、攻撃陣の中核に居座った。結果を残す事で周りを認めさせた頼もしさに、今回もやってくれるはずという期待感もおのずと高くなる。これまでに溜まった鬱憤がモチベーションとなり、周囲を黙らす逆境の強さに期待するしかない。
MF香川=得意な形でシュートできるか
鬱憤を晴らすという意味ではMF香川(マンチェスターU=イングランド)も同様だ。自身のプロキャリアで初となる無得点で1年を終えた。欧州最上位の名門ながら監督交代という憂き目もあって、信頼を勝ち取るには至らなかった。スタメン定着は叶わず、リーグ戦38試合の内、出場18(先発14)にとどまり、試合感覚に不安が残る。
今夜の試合では、前線で動きながらパスをもらい、細かいタッチでシュートまで持っていく得意の形がでるか。香川の生きるゾーンはペナルティーエリア内だ。そこにどれだけ入り込めるか。チームとしても、ゴール前まで全体で押し込むような攻撃を繰り返さなければならない。
FW岡崎=裏への飛び出しが一級品
攻撃陣の中で今年好成績を収めたのはFW岡崎(マインツ=ドイツ)だ。1シーズンで15得点をマークし、欧州主要リーグの日本人得点記録を更新した。所属クラブでも歴代の最多得点者タイ記録を残し、エースとしてチームの7位フィニッシュに貢献。点を取る事でチームを牽引した。
裏への飛び出しは一級品で、常にゴールを目指してプレーする。技術も巧みになり、体を張って起点ともなれる。前線から走り回る守備の貢献も大きく、献身的で働き者という、いかにも日本人らしい特徴を持った汗かき役だ。前回の南ア大会は1ゴールだが、成長著しくさらなる飛躍もありえる。
技術力のFW柿谷、万能型の大迫
岡崎のほかゴールを決める役割の候補は、FW柿谷曜一朗(セレッソ大阪)と大迫勇也(1FCケルン)だ。柿谷はずば抜けた技術力を持ち、繊細なタッチでボールを操る。相手守備の裏を突いてゴールを奪う動きが特徴だ。13年7月に代表初出場・初ゴールを果たし、即定着した。しかし3月に開幕した今季のJリーグでは出場13試合1得点で、やや調子を落としている。
もう一人の候補、大迫はなんでもできる万能型タイプ。パスを受けさばく能力に長け、プレー精度が高い。遠目からのシュートも得意としている。1月にドイツ2部1860ミュンヘンに移籍し、15試合6得点。合流して間もなく新天地ですぐに結果を残し、1部チームに移籍を果たした。
2012年のロンドン五輪では選出外という悔しさもあって、大舞台にかける思いは強いだろう。優位なのは大迫か。ただ両者とも代表経験が浅いという懸念が残る。
FW大久保=高い経験値誇るベテラン
そこで攻撃陣にさらなる厚みを持たせるのがFW大久保嘉人(川崎フロンターレ)だ。昨季クラブでは、33試合26得点とゴールを量産しJ得点王に。前回大会後1度しか召集されなかったが、貪欲に点を取り続け、滑り込みで代表選出となった。
シュート精度は以前よりも増し、31歳ながら運動量もある。日本の報道陣へは「クラブチームでは監督から、点を取る仕事に専念させてもらった」と、得点能力向上のきっかけを語っている。左右でも中央でもプレーでき、前回W杯でも主力だったという経験値もチームに良い影響をもたらすのではないか。
攻守のつなぎ役4人のMF
中盤で攻守のつなぎ役になるのはMF遠藤保仁、長谷部誠、山口蛍、青山敏弘の4人。34歳の遠藤(ガンバ大阪)はメンバー最年長で最多3度目のW杯に臨む。正確なパス、戦術眼で相手の隙を射抜くプレースタイルだ。
主将の長谷部(フランクフルト=ドイツ)は2月、右ひざを手術した。リーグ最終戦に先発フル出場を果たしたが、まだ万全ではないようだ。
彼ら2人を脅かす存在が山口(セレッソ大阪)。12年ロンドン五輪で頭角を表し、13年7月の初選出で日中韓豪4カ国による「東アジア杯」に出場し、大会MVPを獲得した。ボール奪取や守備力に優れ、シュート力もある。彼もスタメン候補の一人だ。
懸念残るは守備力か=守護神GKは川島永嗣
続いて守備陣。DF長友(インテル=イタリア)は今季、自己最高のパフォーマンスを披露した。本職は左DFだが、より前目の左MFとして34試合5得点7アシストという好記録を残した。1月13日を最後にゴールから遠ざかったものの、欧州屈指の名門で主将を任される場面もあり、代表メンバーの中で最も充実したシーズンを送ったのではないか。
絶え間なくピッチを上下するスタミナは世界一に匹敵し、他の選手が疲弊する中、終了間際でもはつらつとした運動量を見せてくれる。暑さにも負けない。能力には疑いの余地がなく、大舞台でも発揮されるだろう。
特にセンターバック(CB)を務める吉田(サウサンプトン=イングランド)は、果たすべき役割も大きい。守備陣の統率役で、メンバー最長の189センチという上背を活かし、ハイボールを跳ね返さなければいけない。屈強な外国人FWを相手に、体を張った守備を見せてほしい。
DF内田篤人(シャルケ=ドイツ)は右サイドバックとして、攻撃面で高い能力を持つ。常に前向きでボールをもらう意識を持ち、正確なクロスで相手ゴールを脅かす。守備ではスピードを生かし、相手のドリブルにも素早く応じることができる。
最後の砦となるGK川島永嗣(スタンダール・リエージュ=ベルギー)は、強豪クラブで定位置を確保。1対1でも強さを発揮し、守護神として頼もしい選手だ。前回は大会直前に正GKの座を奪い、決勝T進出に貢献した。
現代表の強みは左サイド=23人の総力戦で臨むべし
日本代表のスタイルは、正確なパス回しでボールを保持しながらゴールを狙うもの。また守備から攻撃への早い切り替えにも特徴を持つ。ボールを奪ってから、素早くシュートまで持っていく意識も高い。相手コーナーキックというピンチが、時にはカウンターのチャンスともなる。
ほかの見どころは世界一のスタミナと走力を誇るDF長友と、技術力に優れたMF香川が配置された左サイドだ。現代表で最大の強みを持つ。彼らと中央のMF本田がいかに組み立てに関わるか。3人の連携は相手にとっても脅威で、一つの得点パターンとして定着した。
決勝T進出のカギはさらにラッキーボーイの誕生だ。前回の南ア大会ベスト16という結果は、直前になってスタメンを勝ち取ったMF本田の大活躍によるもの。また点取り屋の奮起も不可欠で岡崎、大久保、柿谷、大迫に期待がかかる。
前回大会はその上ベンチメンバーが支えた面も。MF中村俊輔、GK川口能活(FC岐阜)、楢崎正剛(名古屋グランパス)が主力選手を励まし、陰でイレブンを支えた。ベテランからのゲキに、奮起するきっかけが生まれた。ベンチメンバーを含めまさに総力戦だ。
ブラジル特有である南北の気温差、移動距離はどの出場国にとっても鬼門。いかに攻略するかが勝ち進むための秘訣となるだろう。日伯両国も最速、準々決勝で相まみえる可能性がある。とはいえまずはGL突破。すべては今夜、初戦で決まる。