【社友・スポーツライター、下薗昌記】開幕したワールドカップ・ブラジル大会で14日、日本代表は大会初戦のコートジボワール戦に挑む。過去4大会とは異なり、日本は初めてブラジルからの帰化選手抜きで世界に挑戦するが、ブラジルへの熱い思いを胸に秘めながら、レシフェのアレーナ・ペルナンブーコのピッチに立とうとする男がいる。高校時代にブラジルに短期留学を経験した遠藤保仁(ガンバ大阪)だ。
鹿児島県出身の遠藤は、ザックジャパン不動の司令塔で日本代表では歴代最多となる国際Aマッチ141試合に出場。今回の代表選手23人の中では最年長の34歳で、唯一、三大会連続でワールドカップに出場するベテランである。
飄々としたプレースタイルと、冷静沈着なボールさばきで日本の攻撃の組み立てを託される背番号7にとって、ブラジルは自らのサッカー人生に大きな影響を与えた国だと公言して憚らない。
「僕が小さい頃は、サッカーと言えばブラジル。高校時代もブラジル人コーチに指導を受けたし、その影響は大きい」(遠藤)。高校サッカーの名門、鹿児島実業高校サッカー部では早くから将来を嘱望されていた遠藤だったが、高校2年の時に経験したブラジルへの短期留学が、大きな衝撃となった。
「ハングリーな連中ばかりで、ブラジル人のサッカーに賭ける思いや気持ちの強さを知った」。留学先はソロカバ市にあるサンベント。カズ(三浦知良)や中澤佑二らのように長期間、技を磨いたわけではなかったが、サッカーに不可欠なメンタル面での意識改革がその後の遠藤のサッカー人生を支えてきた。
そんな遠藤が心待ちにするのが、自らの原点の一つでもあるサッカー王国で開催されるワールドカップである。既に昨年のコンフェデレーションズカップでも一足先にブラジルでのプレーを披露しているが、「コンフェデとワールドカップでは注目度も違う。ブラジル人はサッカーを見る目も肥えているので、そんな国でプレー出来るのは楽しみ」と笑う。
イトゥーをベースキャンプとする日本代表は8日、ソロカバで公開練習を行ったが、奇しくもこのグラウンドは若き日の遠藤がボールを追った場所だった。
ポルトガル語で「舵取り」を意味するボランチのポジションを託される希代のパッサーが志向するのはブラジル人好みの攻撃サッカーだ。「この大会では見ている人も、プレーしている僕らも楽しい、そんなサッカーをしたい」と自らの集大成となる大舞台に向けてこう言い切った。
14日午後10時、ブラジルを誰よりも知る一人のサムライが、サッカー王国のピッチに立つ。