W杯ドイツ戦の前半、ブラジル代表は電源が切れた玩具のように、相手のなすがままに6分間で4得点も決められた。サッカー王国において「7月8日」は百年後も激論の的となる屈辱の日となった。マスコミが「アパゴン」(大停電)と呼ぶこの〃魔の刻〃に何が起きたのかを勝手に推測した▼前回の自国開催時は優勝未経験だったが、今回は5回優勝の実績から「当然優勝」という国民の期待の重圧がかかっていた。世界中探してもそんな国は他になく、選手や監督にとって尋常でない心理的負担になっていただろう▼人は誰しもプレッシャーに弱い部分がある。チリ戦が延長、PKとなり、ゴレイロのジュリオが2つも止める神業を見せてチームを救った時、主将チアゴ・シルバすら座り込んで泣いていた。あの時点で選手の多くはすでに心理崩壊寸前の状態にあったのだろう▼国民の重い期待に応えていた大黒柱がネイマールであり、彼が負傷離脱したことでチーム心理に空洞が生まれた。今までなら1点先制されても「彼が返してくれる」と心を落ち着かせたが今回はいない。動揺を落ち着かせる間もなく2、3点目となり完全崩壊した▼ブラジル代表は6試合目で伝統チームにあたるというクジ運の良さに恵まれた。「格下相手」という優越感が、今までの薄氷を踏むような勝利を支えてきたのか。そこにドイツ、ネイマールと主将の不在という負荷が加わった時、最初の一撃でチーム心理が崩壊したか▼奇しくもリオのキリスト像の足元のマラカナン競技場で現・前法王を抱える亜国とドイツが決勝戦を争う。世界最大のカトリック国でのW杯に相応しいラストかもしれない。(深)