ホーム | 日系社会ニュース | 「僕は何もしていない」=Bブロックとして逮捕の原野さん=(下)=信念から社会運動に参加=漫画など日本好きな一面も

「僕は何もしていない」=Bブロックとして逮捕の原野さん=(下)=信念から社会運動に参加=漫画など日本好きな一面も

支援サイト「リベルダーデ・パラ・ヒデキ」には釈放を求めるコメントが集まっている

支援サイト「リベルダーデ・パラ・ヒデキ」には釈放を求めるコメントが集まっている

 ブラック・ブロックとは、覆面をした黒ずくめの集団で、デモ隊に混じって破壊行動を行うことで悪名が高い。インターネットの動画投稿サイトにある「ヒデキ・ハラノが逮捕された瞬間」と題された動画では、警察に所持品検査をされている場面が映っているが、緑色のジャケットに濃い青色のポロシャツとごく普通の格好だ。
 原野さんはまず取調べを受け、官選弁護士2人に会えたのはその後だった。「その日は冷たい床の上で毛布もなく縮こまって眠りにつき、拘置所に移送された」が、こちら来てからは「何ら不当な扱いは受けていない」といい、前の週には家族とも面会した。
 なぜ逮捕されたと思うかとの質問に、「きっと警察は、最初から〃ヘルメットを持っている髪の長い日本人〃、つまり僕を探していたと思う」との解釈をのべた。
 原野さんはW杯反対、MTST(ホームレス労働者運動)、MPL(無料乗車運動)の社会運動のデモの常連で、USPの職員組合幹部の一人でもあり、その業界では知られた人物だという。
 「そういう目立つ人間を捕まえることで、自分の仕事をアピールして、世間の恐怖心をあおることが目的だったんじゃないか」と逮捕された理由を分析する。
 「正当な抗議行動のための街頭デモは憲法で保障された権利。僕は公平で非人道的な行いのない、より良い世界を作るための政治活動をしているだけ。一人ひとりが個人主義的に人生を送っているだけでは良い世界は作れない」との信念を語り、「僕は迫害を受けている政治犯」と位置づけた。
 エスピリトサント州ヴィトーリア出身で、現在はサンパウロ市で一人暮らし。剣道をやっていたが数年前に道場通いをやめた。数カ月間のデカセギ生活を静岡で送った経験もある。「行ったら何とかなる」と言う程度の日本語は片言レベル。四世だが名前の漢字は迷いもなく書く。何よりも漫画、特撮映画の大ファンだ。
 軍政時代には多くの日系学生運動家がいたが、現在では原野さんのような日系運動家の存在は多くない。「いい大学に入って多国籍企業で安定した人生を送るべきというのが、多くの日系人の親の考え方。『どうして君もその道を進まないの?』と聞かれる。組合活動をしているなんていうと奇異な目で見られるよね」と笑った後で、「でも自分の場合は、両親も祖父母もちゃんと理解してくれている」と付け加えた。
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 原野さんの弁護士は未決拘留判決の取り下げを求め、高等裁判所(STJ)に申し立てているところだという。支援サイトには原野さんがMNDHや記者らに託したポ語のメッセージが投稿され、その日本語訳まで載せられている。
 W杯終幕や選挙活動本格化を受け、抗議行動が再活発化するとの指摘も出ている。警察の「見せしめ逮捕」に反対して原野さん釈放を求める運動が、その中で焦点の一つになる可能性がある。
 今回の訪問は、真相究明委員会のサンパウロ州小委員会アドリアーノ・ジオゴ委員長(サンパウロ州議、PT)の働きかけが背景にあった。映像メディア会社イマージェンス・ド・ジャポンの共同経営者・奥原マリオさんの熱心な働きかけにより、同州議は「日本移民の死と拷問」問題を同委員会で扱っており、今回に関しても「人種差別による不当逮捕が現在でもあるのではないか」との思いを抱いているという。
 身柄拘束から17日目を迎えた10日付フォーリャ紙によれば、原野さんは拘留されたままだ。(田中詩穂記者、終わり)