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『米州の一奇跡、パラグァイ国』=存在感示した宇国ムヒカ大統領=(下)=坂本邦雄

 因みにウルグァイと亜国との間での最も象徴的なイザコザは、河口でラプラタ河となる両国の国境ウルグァイ川上に、ウルグァイが建設したパルプ工場の、ヘーグ国際司法裁判所にまで亜国に告訴された河川汚染問題だ。今は小康状態(ウルグァイが勝訴)にあるが、この類の紛糾が亜国の御機嫌次第で何時また再燃するか分からない。

今も嫌がらせある巴亜国間

 パラグァイについてもアルゼンチンは何時も事ある毎にチョクチョクと、例えば亜国領土経由チリへの輸出牛肉の輸送に抜打ち検査を行うなど嫌がらせを遣っている。
 北はブラジルのカセレス港に始まりブラジル、暮国(ボリビア)、巴国、亜国を経由し、南はウルグァイのヌエバ・パルミラ港に至る世界有数の3442キロに及ぶ国際水運航路「パラグァイーパラナ河水路」に於けるパラグァイ国籍の船舶航行に、アルゼンチンは度々自由航行条約に反した規制や港湾料金を課す等、パラグァイの穀物やその他産物の大量輸送を妨害したりするのである。
 かような動静の中、元ツパマロス極左武装組織を結成したゲリラ闘士で、軍政や右翼政権下で14年間もの投獄生活を経験したとは思えぬ、今は中道左派で清貧の代名詞の様な質素な身なりの見るからに好々爺の、愛称は「ぺぺ」と呼ばれる〃ラストサムライ的〃ホセ・ムヒカ大統領は、カルテス大統領に「ぺぺの発言は一句一句が尊い教訓」だとして大手を広げて迎えられた。

ラストサムライ〃ぺぺ〃

 この「ぺぺ」ことムヒカ大統領は月額12500ドル相当の報酬の90%を社会福祉基金に寄付し、自身の資産はモンテビデオ市近郊の自宅農場(夫人資産)と1987年型フォルクスワーゲンのカブト虫一台だけ。クレジットカードや銀行口座も持たず、また貧民の臨時収容の為に開放した豪華な大統領公邸には住まず、公務の合間には自宅農場でトラクターを運転し、畑仕事とニワトリ達の世話をして暮らす高潔な生活態度は、市民の高い信頼を得ている。
 近頃パラグァイでは国会従業員が第一世界並みの高給の他に、年4回のボーナスを支給されている非常識なスキャンダルが発覚し、他の政府機関も同様の例が蔓延している疑いがあり大問題になっている。
 「米州の一奇跡」と言われ、多少は金回りが良くなったのかどうかは知らぬが、名目上の部課長制度を拡大し、管理職ばかり増やせば「船頭多くして船山へ上る」の喩えで「パラグァイ丸」は陸に上がって仕舞う。
 我がパラグァイの多くの腐敗政治家や官吏はムヒカ大統領の爪の垢でも少しは煎じて飲んで貰いたいものだ。

ムヒカ「貴君は無分別だ」

 ところで、ムヒカ大統領が先述の国際見本市を参観中に我が国の牧畜に関心を示し、NELORE種の展示牛舎に立ち寄った際に、パラグァイNELORE牛育種組合のマヌエル・ロドリゲス・フェレール理事長が、ムヒカ大統領に既に3ヶ月以上もEPP・パラグァイ人民軍が誘拐中のアルラン少年(ブラシグァジョ、16才)が早期開放されるべく、目下全国的に展開中のアルラン救出大運動に大統領の支援を要請し、「Liberen a Arlan(アルランを開放せよ)」のフレーズが印刷されたTシャツを贈呈しようとした。
 ところが、ぺぺは意外と反駁し、声高に「余はウルグァイの親パ大統領として帰国を訪問している。余が存じなかった御指摘の誘拐事件に、急に今余が関わるのは内政干渉に及ぶ問題だ。貴君は無分別だ」と譴責した。
 この思わぬハプニングは色々と取沙汰されているが、巷の一説はぺぺは元ゲリラ闘士で、過去に誘拐や銀行襲撃、又は殺人事件に関わった向う脛に傷を持つ身なので、痛い処を衝かれた思いだったのだろうと云う。
 ARP・パラグァイ牧畜協会はムヒカ大統領に、我が駐宇大使館経由正式に謝罪の意を伝える手続きを執った。(終わり)