「私ほど、新薬の承認審査のドラッグ・ラグを遺憾に思ってきた大臣はいない」
「ブラジルから広がり、中南米諸国の多くの皆さんにも新薬や先端医療の恩恵にあずかってほしい。このために審査迅速化、効率化に向けた日伯両国による総合活動を開始したい」。安倍晋三首相は2日午前、サンパウロ市内で開かれた「日伯医療分野規制に関するセミナー」に参加して、日伯協力を強調する約10分間のスピーチをした。
ブラジルの医薬品や医療機器の規制当局・国家衛生監督庁(ANVISA)の薬事承認までの時間が長いことが、日本の医薬品や医療機器をブラジルに提供する上での足かせとなっており、当地の審査迅速化が望まれている。安倍首相は1日のジウマ大統領との首脳会談では医療保健分野で協力関係構築に合意。セミナーは日本側の規制当局の医薬品医療機器総合機構(PMDA)、ブラジル側のANVISAとの間の協力関係の強化を目的として開催された。
首相はスピーチで、自身が国の特定疾患である潰瘍性大腸炎に罹患した経験に触れ、「数年前に新薬が承認され、今日総理大臣の職務を遂行している。私ほど、新薬の承認審査に長い時間を有するドラッグ・ラグ(新たな薬物が開発されてから治療薬として実際に患者の診療に使用できるようになるまでの時間差や遅延)を遺憾に思ってきた大臣はいない」との経験を紹介した。
日本ではこのドラッグ・ラグ克服のため、独立採算で運営を行うPMDAを設立し、審査担当者の大幅増員に伴い高い専門性の蓄積に成功したと説明。08年度に2カ月擁した新薬の審査期間が4年間で10カ月に、特に重要な新薬については優先審査を行って6カ月に縮まったという。
「ブラジルは2060年には人口の3割以上が60歳以上になるとみられ、急速な高齢化のため国民の医療サービスに高まる期待はいっそう大きくなっていると聞いている。この経験を誰かと共有したいと思ったときに、真っ先に頭に浮かぶのがブラジル」との思いを表明した上で、冒頭のように発言した。
さらに、「日系人医療関係者が築いてきた信用という土台があることは、医療保健分野の協力を発展する上で基礎になる」と日系人医師のブラジル医療への貢献に触れ、「日系病院への支援を通じたブラジルの医療保健サービスの充実への支援をしたい」とのべた。