地下鉄の駅のビリェッテ・ウニコ入金の列に並んでいた時、年配の婦人が10代の妊婦に「列の前に入っていいのよ」と言うのを見た。当の妊婦が感謝しつつ「大丈夫です」と答えると、婦人の方も「お母さんも赤ちゃんも元気な証拠ね」と言葉を返す▼婦人が自分も娘が3人いてその内の一人が10代で子供を産み、今は孫が3人などと話している内に順番が来て、二人共窓口に。先に用件を済ませた婦人は「元気な赤ちゃんを産んでね」と声をかけて立ち去ったが、会話の端々に若くして母となった娘と妊婦を重ね、慈しみの眼差しを注ぐ様子が伝わってくる▼自分自身や身近な人の経験が他者への思いやりや慈しみとなる様子は美しい。電車やバスの優先席や銀行などの優先窓口は思いやりを形で表したもので、ブラジルでは高齢者や障害者、妊婦や乳幼児を連れた婦人なども対象となる。日本にいた頃は、妊婦や小さな子供連れの婦人が銀行などで優先されるのを見た記憶がない。電車などの優先席に若者が座って寝ている光景も珍しくなかった。だが、ブラジルでは(少なくとも日本より自然な雰囲気で)席を譲るのを良く見かける▼ブラジルでの高齢者は日本より少数派で、女性や子供も含めた弱者に優しい国柄を反映した光景と言えそうだ。だがこれが、日本ほど核家族化しておらず、身近な所に高齢者や妊婦、子供がいる環境のせいならば、ブラジルでも将来、日本並みに高齢者や障害者は「うざい」という人が出てくる可能性がありそうだ。若年妊娠は教育や計画性の欠如故との声もあるが、若い妊婦に温かい眼差しを注いだ婦人のような、さりげない行動がいつまでも見られる国であって欲しい。(み)