NHK・BS1で15、16日に放送された勝ち負け抗争を扱った『遠い祖国』(前、後篇)を見た。貴重な証言を集める意欲には敬服したが、見終わった後に「何が言いたいのか…」という不完全燃焼感が残った▼まるで、悪いのは「開戦直後に移民を捨てて帰国した日本外交官」と「移民を迫害したブラジル政府」であり、「祖国に捨てられた可哀想な日本移民は、皇室崇拝に拘り過ぎてキチガイのようになって勝ち組が生まれ、15人以上も負け組暗殺を実行した」という超単純化された図式が頭に印象付けられた▼日本メディア的「移民は可哀相」という目線が強く感じられ、日本の日本人が見たら「皇室のために殺し合いまでした人々」という滑稽感すら漂う内容―といえば穿ち過ぎか▼特に違和感があったのは「ラジオ」という言葉が何度も出てくるのに、NHKの前身「東京ラジオ」(短波放送)が果たした決定的な〃役割〃には敢えて言及しなかったように見える点だ。邦字紙は1941年に強制廃刊され、唯一の日本語報道機関は東京ラジオだった。そこで聞ける「大本営発表」は、日本軍の戦果を誇るプロパガンダ放送を最後まで流していた▼それもあって、終戦ギリギリまで移民は「伯字紙はデマ情報を伝える。東京ラジオこそが正しい」との印象を刷り込まれた。戦後にブラジル官憲や伯字紙がいくら終戦を伝えても、移民が信じられなかった主因だ。もし東京ラジオが正確な情報を伝えていれば「日本は負けるかも」という心の準備ができていた▼NHKは勝ち負け抗争に関しては「他人事」ではない。東京ラジオの功罪にも触れて反省する部分があっても良かった。(深)