「マー・カー・コー」―。8月28日、ブラジル杯のサントス対グレミオ戦で、サントスのキーパーに人種差別の野次が飛んだ。22歳の女性サポーターが声高に叫ぶ姿はテレビでも放映されたが、人口の半分以上が黒人か黒人系の混血(パルド)という国でさえこのような行為が起きるのはなぜだろう▼サルと呼ばれた時はこらえていたアラーニャ選手は、鳴きまねまでする観客が出た時点で怒りをあらわにした。後日行われたインタビューでは、野次を飛ばした人達を「人間として気の毒に思う」と語った▼今年は国内外でのサッカーの試合で人種差別的発言や行為が繰り返されており、野次を飛ばしたサポーターも差別行為に対する世間の反応がどのようなものであるか知っていたはずだ。だが、頭で理解している事と実際の行動は必ずしもかみ合わない。怖いのは、心の底に優越感などがある事に気づいていない人が多い事だ▼昔、「私あの子みたいにきれいじゃないの」と卑下する少女に、「一皮剥いたら皆、骨や筋肉の塊さ。大切なのは中身だ」と教えた人がいたという話を読んだ事がある。肌の色や外観はその人のごく一部に過ぎないし、親が裕福だから贅沢三昧出来るが、本人は何のとりえもないただの凡人という例もある▼相手の人格や能力、価値を正しく認識出来ない人は、職場などでもトラブルを起こす事はあっても調和を作り出す事は難しい。人種差別的行為の背景にはその人の内面の貧しさや視野の狭さがあると考えると、アラーニャ選手の「気の毒」発言ももっともだ。全国に知られて解雇された上、実刑判決の可能性すらある。心無い行為の代価は相当高い。(み)