ホーム | 日系社会ニュース | 寄稿=サントス―グアルジャー間=出来るか海底トンネル=なぜか日本勢の参加無し=駒形 秀雄

寄稿=サントス―グアルジャー間=出来るか海底トンネル=なぜか日本勢の参加無し=駒形 秀雄

 サンパウロ州海岸部サントス―グアルジャー地区には、先日カンポス大統領候補機の墜落事故で全国の注目が集りましたが、この同じ場所で8月末、大きな発表がありました。それはサントスとグルジャーを結ぶ海底トンネルの入札公告です。

 サントス港は皆様おなじみ、移民船の入港地ですが、ここは湾の入り口から内陸に入る細い水路に岸壁が作られております。この水路の幅は狭いところだと600メートル程度で、すぐ対岸が見えるのですが、そこを大型の外航船が頻繁に航行するので橋は掛けられません。往来の一部はフェリーボート(渡し舟)で接続しておりますが、これとて船舶の航行の邪魔にならないように港の端のほうで運行されているのが現状です。
 ここに水路を横切る海底トンネルを作ればサントスとグアルジャーの間が道路で結ばれ、両岸の往来はとても便利になる―と、これは誰でもが気が付くことです。ですが、問題は南米一の港の底を掘るトンネルが簡単に出来るか? 適当にやって万一事故でも起きたらどうするか? 建設は経済的に引き合うのか? 心配性の人でなくても気になるところです。
 でも、有難いことに、現在は技術が大幅に進歩したことで、経済的に引き合うコストでその建設が出来るようになり、外国では似たような工事の実績も多数あるので心配は無い、となり、今回いよいよその入札案内が発表された訳なのです。
 この計画を、これも皆様御存知の「日本の技術」とからめて、以下に御紹介してみましょう。

海底トンネル計画の概要

 サントス港とグアルジャ(V・de・Carwash)を結ぶ海底トンネル計画の概要は以下のようなものです。

海底トンネルのおおよその位置

海底トンネルのおおよその位置

 【利便性】サントス―グアルジャ間(以下両岸)の移動量は1日当り4万人、車が1900台。この両岸を道路で迂回すると、現在、43キロになりますが、トンネルが出来ればこれが1分で行けます。休日などでフェリーを利用すると暑い日射しの中、1時間以上も順番まちでウンザリした経験を皆様もお持ちでのことでしょう。
 【技術面】・トンネルは港の底を通るので、水面下21メートルの深さが必要です。トンネルの海底部分の長さは762メートル、接入(出)部を含む全長は1700メートルになります。
 工法はこの地区に最適な「沈埋トンネル」方式が採用されます。沈埋工法とは、あらかじめ地上(GUARUJA)でコンクリートの函(ケーソン)を作り、これをトンネルの建設場所まで船で曳航し、後、これを海底に沈めて各函(ケーソン)を接合し、トンネルとする方法です。
 函(ケーソン)の大きさはそれぞれ、長さが127メートル、高さが10メートル、幅が35メートルで、これが6個必要です。これで片側3車線の道路が出来ます。位置は両岸を結ぶ水路のほぼ中央で、詳しくは添付図を参照下さい。
 工事費・計画全体で12億ドル。トンネル工事だけで4億5千万ドルと計算されています。工期は44カ月でBNDES銀行の長期、低利融資がつきます。
 入札・8月27日告示(発表)、10月14日資格審査書類提出・即日開封です。ここで資格OKとなったグループが価格などの付いた正式見積もりを出し、審査を受けます。建設主体はDERSA(サンパウロ州の道路公社)で今年中に発注を決める(?)としております。

日本の得意な分野のはず

 このような資料を見ていた友人Iさんが言いました。「海底トンネルといえば、日本人なら直ぐ『青函トンネル』(北海道―本州)「関門トンネル」(本州―九州)が思い浮かびます。四方を海に囲まれた日本にはお手のものの工事ですよね。サントスのようなブラジルの表玄関に日本の技術でブラジル最初の海底トンネルが出来れば嬉しいわ。私達日系人も鼻高々ですよね」と。日本は参加出来るのでしょうか? もう少し詳しく調べてみましょう。
 この計画は実は昨年から今年に掛けて一回入札に掛けられているのです。その際は、ブラジルの大手土建会社(ゼネコン)が外国企業と組んで応札しているので、それを見るとブラジルや外国競合者の様子が分かります。前回入札ではブラジル ゼネコンの C・CORREA、N・ODEBRECHT、A・GUTIERREZなど横綱、大関級が揃い踏みで参加しています。外国勢も十分な実績を引っさげて、スペイン、オランダ、イタリーの他、韓国もそれぞれ別グループに参加しています。
 このような工事となると地元が断然有利ですから、日本が参加する場合は、どこかブラジルの大手ゼネコンのグループに入らないとなりません。ブラジル・ゼネコンも技術的の裏付けが欲しいし、資格審査を通るには外国企業の実績が不可欠となります。両方とも有望な強い相手と組もうとします。日本は技術力はあるし、資金的にも問題はありません、「国際協力銀行(JBIC)」という立派な銀行もあります。
 世界の海底トンネルの長さベスト10本のうち、4本は日本にあります。沖縄本島なは空港近くではサントスと同じ様な工事もやっています。資格十分な日本がなぜ前回入札に参加しなかったのか、理由ははっきりしません。

企業の〃開拓者魂〃は

 「仕事のおいしいところはブラジルで、日本が参加しても技術を提供するだけではウマミはない」「こういうことはどうせ政治がらみになるから、余り危ない橋を渡らない方がよい」と考えたのかも知れません。
 或いは「日本が技術を出して資金を出して案件のリーダーシップを取れるなら面白いが、ブラジルグループの中に入って面倒な交渉をしたり、責任を押し付けられたりするのはゴメンだ。もっと身近に良い仕事があるよ」と思ったのかも知れません。
 しかし、いずれにしても海底トンネルの建設、このような工法の採用はブラジル初のことであり、それでDERSA(道路公団)も外国企業の参加を条件ずけているのです。心配な点、リスクはあるでしょうが、スペインやイタリア、言葉のハンデのある韓国までが敢然参加している案件に、日本が参加出来ないはずがありません。「今時の日本人はコンピューターで計算するばかりで、困難を克服して事態を打開しようという‘やる気が無いんじゃないの。内にこもる日本人では私達淋しいわ」。そうIさんが言葉を継ぎました。
 日本の技術が他の国より優れていて、(つまり他国よりも安いコストで建設が出来る工法、技術があるならば)何とか計画に参加出来ないものでしょうか? ここで新規技術案件に参加しておけばブラジル大手ゼネコンとの関係も出来るし、今後のこの種の工事、ポルト・アレグレ、ヴィトリア、サルヴァドールと、ドンドン仕事が広がる可能性も出てきます。大きな視野が欲しいところですね。
 どうでしょう皆さん、多くの困難を打開して、この地に今日の地歩を築いてきた皆様の開拓者魂を、平和で豊かな祖国日本のパトリシオ(同胞)に伝えられないでしょうか。(感想などはどうぞーkomagata@uol.com.br