最近、ドイツ連邦ハンブルグのシンクタンク「GIGA研究所」のデトレフ・ノルティ所長は、この8月に就任一ヵ年を迎えたカルテス政権の業績の明暗を観察し、「課題が山積するパラグァイ」と題する論評をドイチェ・ヴェレ(国際放送事業体)の専門誌に発表した。「いかなる政権といえども、その僅か一年の行政成果を早々に評価する事は危険」とはしながらも、これまでには見られなかった経営者型で実践家プロフィルのカルテス大統領の登場は大衆に新鮮な期待感を以って迎えられたのは事実だとした。
メルコスール復帰は成果
多くの予想は、必ずしも期待された程に適えられたとは言えず、例えばかつてより政治的な機構障害の故に引き摺られて来た雇用の創出問題などの改善又は、解決の兆しが未だにハッキリ見られない。
カルテス政権の一つの目ぼしい成果は、「国会が2012年の6月にフェルナンド・ルーゴ元大統領を行政不振の廉で電撃的に更迭したハプニングは取りも直さず〃国会クーデター〃に外ならずと、メルコスール及びウナスールの各地域同盟・共同体の反撃で正会員国の資格を剥奪され、孤立したパラグァイを改めて同両団体に復帰させた事が挙げられる」とノルティは指摘する。
同じく歴代政権と異なり、歴然たる行政改革を目指す現政府の施政態度を評価し、これ迄に米州人権裁判所の評決に何れの過去の政府も応じなかった先住民族伝来の自然生息地の返還を履行した点に言及した。
だが、カルテス大統領は土地の不平等な配分、暴力防犯、ゲリラ対策、巨大な闇経済勢力等々の諸問題が渦巻く環境下で国政改善の遺産的重責を担っている事は従来の政権と大差ない話である。
往々にして大統領の足を引っ張る議会
パラグァイの立法府は非常に強力で、議会は往々にして行政府のイニシアチブを中和させて仕舞う。つまり、パ国政府は三権のバランスが良くとれた理想の「大統領制政権」ではないのである。
大統領は議会過半数の一致があってのみ、初めて行政施行が可能なのだが、議会を構成する様々な政党議員が、これまた大いに分裂しているのである。
カルテスは政権与党コロラドの内においてすら過半数の支持に欠けるのである。加えてカルテスは政界の新参者で、所属するコロラド党の伝統的政治家ではない。かように複雑な事情がカルテス大統領をしてここ一年間の国政統治を困難にして来たと言える。
ノルティはその分析で、多くの評論家が忠告する様に、農業関連産業の躍進で増大する新耕作地の造成や、大農家に追い遣られる零細農民の都市圏への避難で、日毎に必要性が増す食糧輸入の矛盾などの社会問題を警告している。
そこで、例えカルテス大統領がその課題対策に農地改革政策を打ち出したとしても、かつてフェルナンド・ルーゴ元大統領が経験したのと同じく、国会の大多数の反対で農地改革の農村開拓政策はまた失敗に終わるだろうと云う。
次いでもう一つの批判の的は、カルテス大統領が就任早々国会で逸早く決議を得た御自慢の「APP・官民連携法」である。
これはインフラ整備投資事業を奨励し、内外資本の誘致を促進する野心的な法律であるが、反対論者は「事業民営化の怒涛」を招く以外の何物でもないと厳しい。
問われる官民連携法の是非
ノルティはこの非難の背後にあるのは、恐らく次の二つの点ではないかと見る。即ち、①はパラグァイの看過できないインフラ基盤整備のネガチブな不備欠落問題、②は談合主義に固まる強力な半民半官企業グループの役割や、雇用配分に対する決定的な影響力が挙げられる。
そして、これ等の民営化政策に要する国会での多数派勢力が欠如する現状下において、当然考えられるのはある一定の政府と民間の各セクター間の相互支援提携を検索する事である。
官民連携法を支持する者は、これがパラグァイの為に、ごく重要な内外官民投資を誘致する唯一の道であると力説するのである。
以上は、パラグァイの農地改革と官民連携法に関するドイツのGIGA研究所のデトレフ・ノルティ所長による、新カルテス政権一年間の業績に対する厳しい評価であるが、「良薬口に苦し忠言耳に逆らう」で、大いに傾聴すべきではないかと思える。(註・LN紙8月29日記事引用)