2歳の時父を亡くし、アルコール中毒の母や麻薬密売者との交流し始めた兄弟に囲まれて育ったが、食料漁りの最中に見つけた本で勉強して医師になり、自分の診療所を開ける事を夢見ている男性がブラジリアにいる。
この医師はシセロ・ペレイラ・バチスタ氏(33)で、幼い頃は、家族が住む連邦直轄区シャパラルから20キロ離れたタグアチンガまで行って食料を探し回るという生活を繰り返したが、ゴミの中から見つけた本で勉強し、数カ月前に医師の資格を取得した。
「家計を支えていた父が亡くなった後、母は酒浸りになってしまった。母はよその人の物を洗濯したり空き缶を集めたりしていたけど、そんな事では焼け石に水で、家族はいつも空腹だった。兄弟が麻薬に手を出し始めてからの我が家は本当に滅茶苦茶で、食物や服もないから、僕は毎日食料探しに出かけたし、空腹に耐えかねて路上で寝た事もあった」という。
食料を求めて漁ったゴミの中から見つけた本やレコードで勉学や音楽の楽しさを覚えたシセロ氏は、空腹にさいなまされる生活の中で夢を持ち始めた。シセロ氏が食料などを入れて持ち帰る箱の片隅にはいつも、ゴミが腐って出た水や臭いさえ残る本やレコードなどの〃宝物〃があった。
隣人宅で聞く音楽は無上の楽しみで、ヴィヴァルディやストラウスと出会い、クラシックが好きになったというシセロ氏は、バッハとモーツァルトの大ファンだ。ベートーベンは耳が聞こえなくなっても作曲したと知り、作曲家になろうと考えた時もあったという。
拾い集めた本で読み書きを覚えた少年は10歳の時、姉に頼んで小学校に入学したが、その時は既に読み書き、算数の基礎は身についていた。ゴミの中から見つけた宝物の中には哲学や生物、科学、法学、歴史などの本もあり、時と共に蔵書が増えていった。
黒人で貧しく、ハムサムでもないと言いつつ、いつか高みにと考え始めたシセロ氏は、看護師養成講座の試験を受けた。家族の面倒を見る傍ら、拾ってきた犬の死体を解剖し、ゴミの中で見つけたカメラから外したレンズで観察したりしていた事がきっかけで選んだ講座には、2番目という優秀な成績でバスした。
講座終了後のシセロ氏が公務員試験に合格し、保健局で働くようになると家計はずっと楽になったが、シセロ氏はそれで満足できず、3年後にミナス・ジェライス州アラグアリの私大医学部に入学。週日は別の町の大学で勉強、週末は連邦直轄区で勤務という生活は厳しく、教室で倒れた事もあった。1年半後に授業料全額免除の資格を得、ミナス州パラカトゥの大学に転学。前の大学の単位は認められず、ゼロからやり直した。2008年にはブラジリアで全額免除の資格を得、再びゼロから出発。夜勤後は大学直行という生活でバス代や授業料が浮いた分、古本屋で本やレコードを買うようになった。
自分用に最初に買ったのは医学書とクラシック音楽のレコード。麻薬がある家を嫌って路上で寝、麻薬や煙草、酒との接点を切ったが、社会的に不安定な人達を助けたいとの願いは、精神科医として研修を受け、ブラジリアで診療所開設という夢に繋がっていく。
母親や兄弟故に薬物依存症の人の実態を知るシセロ氏は母親を気遣って実家に戻ったが、自分用のアパート購入と共に、年老いた母親が快適に暮らせるよう、1日も早く実家を改修する事を願っている。(4日付G1サイトより)