椰子樹社とニッケイ新聞が共催する全伯短歌大会が14日、サンパウロ市の文協ビル内で開催され、約50人が和気あいあいと歌をひねり、楽しい一日を過ごした。司会の多田邦治さんによれば、投稿費を無料にするなどの工夫の結果、例年より3割以上多い約200首の応募があり、当日も初参加者9人を数えた。1938年に結成された移民最古の短歌誌『椰子樹』(6月に361号)結社が主催し、終戦直後の1949年に開始された伝統ある全伯短歌大会は今年第66回を迎えた。(一部敬称略)
金谷治美さんから大会成績発表があり、応募は97人(194首)、応募者の平均年齢は82歳だった。高点歌は次の通り。
【1位】添えくるる手は温かし青い眼の嫁と夜路をわたりゆくとき(30票、阿部玲子)
【2位】再会を誓いて握る父の手の温かかりき雪のふるさと(21票、青柳ます)
【3位】人生は悲喜こもごもにおりなしてたどるドラマと思えば楽し(19票、酒井祥造)
【3位】夜逃げせし移民詠いし周平の苔むす句碑の文字(もんじ)目にしむ(19票、宮城あきら)
【5位】書籍より身の辺(べ)整理と始めしも一つひとつに思い出多く(18票、須賀徳司)
【5位】それぞれのふるさと持ちて寄りて来ぬ花満開の桜の下に(18票、高橋暎子)
【5位】リベイラのかわもにつらなる灯籠の御霊よかえれ恋ゆる祖国に(18票、早川量通)
作者(2種ずつ投稿)ごとの総合点では1位は阿部玲子、2位は高橋暎子、3位は青柳ます、4位は宮城あきら、5位は崎山美知子、6位は酒井祥造、小池みさ子。
題詠「平和」の1位は「森深く平和に暮らす先住民森を焼かれて荒地さまよう」(松村滋樹)、2位は「晴れの日にみんな集いて歌を詠む静かな朝の平和なひととき」(阿久沢愛子)、3位は「長い川流れて丸くなりし石角のとれたる平和なあなた」。
「なきぞかなしき」がテーマとなった独楽吟では「曾孫を抱きたけれど重たくて老いて力のなきぞかなしき」(作者不明)。アベック吟では「音もなく降る雨なぜか遠い日の めくるめく恋思い出されて」(上の句=石井かず枝、下の句=住谷ひさし)
今回特別にサンパウロ人文科学研究所の宮尾進顧問が日系社会の動態に関する講演を行った。第1回から参加する最古参の一人、安良田済さんが10月に99歳を迎えることから表彰状が贈られ、ボーロ・カットで祝った。第66回と99歳を掛けた。抜き打ちで顕彰された安良田さんは「表彰されるようなことはしてない。ただ好きなことをしてきただけ。90歳から世の中がだんだん分かってくる」と元気に語った。
初参加でみごと題詠1位を飾った松村さんは、受賞者挨拶で「申し訳ない気分。もっと勉強を重ねたい」と謙遜した。司会の多田さんは「若い頃は『歌って踊って』が楽しみだったが、最近はいい歌を詠むために悩んで苦しむのが楽しみですね」と会場を笑わせた。